マネーフォワード・浦田愛子氏インタビュー「KPIに基づく編成が目的志向のチームを作る」

マネーフォワード・浦田愛子氏インタビュー「KPIに基づく編成が目的志向のチームを作る」

本連載「日本のアプリマーケター100人」では、アプリ業界で活躍するマーケターさんをゲストに迎え、ご自身のマーケティングに対する考えや価値観、これまでの経験などをインタビューしていきます。第5回目となる今回のゲストは、menu・二ノ宮悠大朗さんからのご紹介で、マネーフォワードの浦田愛子さん。

浦田さんは「一休.com」の営業企画としてキャリアをスタートし、2018年にマネーフォワードへジョイン。お金の見える化サービス「マネーフォワード ME」の集客やプロモーションに携わり、現在は確定申告ソフト「マネーフォワード クラウド確定申告」を担当しています。

ウェブからアプリの領域へ移り、どのようなマーケティング組織を作ってきたのか、自身のユーザーとしての体験をいかに施策に活かしてきたなどを伺いました。

 

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浦田愛子 株式会社マネーフォワード マネーフォワードビジネスカンパニー個人事業主本部 マーケティング部(※取材時:マネーフォワードホームカンパニーHOME本部 マーケティング部 部長)

プロフィール
宿泊、レストランの予約サイトを運営する株式会社一休に新卒入社。営業企画やマーケティングを経験したのち、2018年4月マネーフォワードに入社。お金の見える化サービス「マネーフォワード ME」のマーケティング部 部長として、デジタル広告やTVCMなどのプロモーションやアライアンス、CRM施策などサービスグロースを担当。

(聞き手:ナイル株式会社 高階良輔)

 

ウェブサービスからアプリへ、マーケターとして感じた違い

-本日はよろしくお願いいたします。浦田さんのマネーフォワード以前のご経歴について教えてください。

浦田:新卒で入社した株式会社一休では、宿泊やレストラン予約を行うサービス「一休.com」の営業企画やマーケティングを担当していました。約3年前にマネーフォワードに入社してからは、マーケティング部長としてお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」をずっと担当していたのですが、この7月からは新しい部署へ移動しまして、個人事業主向けのサービスを担当しています。

 

-金融系サービスとはあまり繋がりが見えないように感じたのですが、なぜマネーフォワードを選ばれたのでしょうか?

浦田:オンラインに限定せず、オフラインを含めた幅広い施策が展開ができるところがいいなと思ったんです。マネーフォワードはユーザーさんとの接触の機会が多く、コロナ禍以前は「お金のEXPO」というオフラインでのイベントを毎年開催したり(昨年はオンラインでのイベントを開催)、ユーザーさんとの交流会も定期的に開催していました。

今は対面での開催ができませんが、交流会はユーザーさんの声を直接聞ける機会としてサービスの運営側としても貴重ですし、社長の辻や経営陣にも参加してもらうこともあり、会社としても大事にしています。

 

-宿泊・レストラン事業からはかなり大きなキャリアチェンジのように見えますが、ギャップなどは感じませんでしたか?

浦田:自分の中では「ITサービス」の領域として捉えていたので、あまり大きな変化だとは思っていませんでした。市場や業種よりも、メインがウェブからアプリになったことの方が変化が大きかったですね。

 

-具体的にその違いを感じたのはどこですか?

浦田:アプリが難しいと感じたのは、入り口がアプリストアしかない点です。ウェブサービスですと、「たとえサイトを知らなくてもホテルやレストラン名での検索や、メディアでの紹介に興味を持ち、予約する」というユーザーの動線が複数あったのですが、アプリの場合、どういう経路だとしても最後は絶対にユーザーをアプリストアに辿り着かせないとならないので。

 

-確かにコンバージョンがアプリストアのみというのはウェブとの大きな違いですね。

浦田:そうですね。ただ、見方を変えると、「アプリは、ユーザーが入ってくる入り口が1つしかない」という捉え方もできます。ウェブの場合はユーザーの経路に応じ、ページの出し分けを複雑に行う必要がありますが、アプリはシンプルで、ユーザーに一番見せたいものを最初に置くことができるという発想を持つようにしました。

 

-なるほど、捉え方を変えればそうですね。また、浦田さんが仰る通り、ウェブですとターゲット別に訴求の切り口を変えたアプローチが可能ですが、アプリではどのようにやっていますか?

浦田:複数のLPを用意してターゲットごとに尖ったメッセージを出すというやり方がアプリではできないため、色々と試行錯誤してきましたが、「多くの人に刺さるベーシックなメッセージ」が一番効くというのが1つの答えです。

「マネーフォワード ME」のような家計簿アプリですと、1月や4月といった心機一転のタイミングで新規ユーザーが増えるので、この時期にだけ訴求の切り口を変えてみようと「今年こそ貯金しよう」「新生活応援」等、普段とは異なるメッセージを打ち出してみるのですが、結果的には通常の広告の方がいい成果が出ることが多かったですね。

ただ、iOSですと今後はAppStoreでプロダクトページの最適化ができるようになるので、また色々と試してみることができそうです。

 

-逆に、ウェブとアプリで共通している点はどこにありますか?

浦田:施策の成果が数字に反映されるところは同じですね。ウェブでもアプリでも「何かを変えたら必ずどこかの数字が反応する」ので、そういったユーザーの行動が現れる数字の変化を追いかけていくことが重要だと思います。

また、以前から言われつつあることですが、データを分析するうえで、マーケター自身が自分でデータを引くスキルを持っていた方が良いと考えています。分析担当に依頼してBigQuery等で必要なデータを抽出してもらうこともありますが、ある程度複雑なデータでもBigQueryやMySQLで自分で引けるようになりたいなと。

今も定期的に社内で勉強会を行うなど、スキル向上につとめています。これは単に、分析チームへの負担を軽減したいということだけでなく、自分で色々なデータを集めて分析できるマーケターが理想的だと考えているからです。

整理された指標のもとでチーム一丸となって目標を追う

-浦田さんがマーケティング部長として担当していた「マネーフォワード ME」では、どういったミッションを持たれていたのでしょうか?

浦田:有料会員数、継続アクティブ利用者数、新規ユーザーの獲得の3つの指標を追いかけていました。私自身が最も注力していたのは、有料会員数になります。「マネーフォワード  ME」は現状料金プランが1種類で単価を上げられないので、有料会員の数を獲得していくことが最重要になります。

この3つの指標はサービスの根幹にあたる数字としてプロダクトに関わるメンバー全体で共有し、中長期的に追いかけています。これよりももう少し手前の指標、たとえば「有料会員数をあげるために、今期は解約率の抑制に注力しよう」といった、より分解された指標を、状況をみつつ半期ごとの注力指標に定めて進めています。

 

-主要な指標は変えずに、その指標を達成するための下位の指標を変えていくということですね。下位の指標の変更は浦田さんが行なわれているのでしょうか?

浦田:最終的には責任者という立場で決めますが、「ここをもっと掘り下げたらいいのでは」というメンバーの意見をもとに、チームで分析や議論をして方針を決めることが多いですね。

今のマーケティング部は、10名前後のメンバーを3つに分けており、有料会員の数や継続率を担当するサービスグロースのチーム、新規ユーザー獲得を担当するチーム、その2つを横串で見ながらデータ分析をする分析チームで構成しています。

 

-各チームメンバーの評価はどのように行なわれているのでしょうか?

浦田:ベースは、先程の主要な3つの指標で評価を行います。ただし、新規ユーザー獲得の中でも「広告経由の獲得数」と「新規全体」を担当しているメンバーをそれぞれ置いたり、特定のキャンペーンを担当しているメンバーであれば、そのキャンペーンの成果を評価したりすることもあります。

主要な指標へのアプローチ方法がそれぞれ違うので、個人のやり方にあわせて評価軸を変えています

 

-指標ごとにチームを分ける、個人それぞれに分解した指標を与える、メンバーのスキルを統一するなど「追うべき指標を整理してチームがフラットに一丸となってマーケティングを行う」という組織作りをされているように感じます。ご自身の中に、そういった組織作りの根幹にある考え方や理由などはありますか?

浦田:はい、主に2つありまして、ひとつは前職の経験からですね。コンバージョン率などチームごとに追いかける指標が決まっており、目標がはっきりしていてメンバーとしてもわかりやすかったですし、組織自体が機能しやすいと感じていました。

もうひとつは、「マネーフォワード ME」が歴史のあるサービスで、KPIの分解がかなり進んでいることが言えるかと思います。たとえば有料会員への転換率についても、新規と既存ユーザーの違いが分析でクリアになっているので、分けて追いかける方がスムーズだと最初から考えることができました。

 

-整理された指標をチームで追いかけるのは理想的ではありますが、一方で指標とサービスの方針が合わないといった、コンフリクトが起きたときはどう解消されていますか?最適解を生み出そうと努力するなかで、話し合いが平行線になるケースもあるかと思うのですが。

浦田:そうですね。たとえば「マーケティングとしては売上を伸ばすためにキャンペーンをやりたい、プロダクト開発側としてはユーザーがそれで本当に嬉しいのか」という議論は、どこのサービスでも起こる話だと思います。

私達も常に議論していますが、随時ユーザーファーストを前提に、各部のリーダー陣で話し合いをすることで質を担保するようにしています。開発側がサービスの方針やユーザビリティに重きを置いており、無料でも使い勝手が良く継続して頂けるようUI/UXの改善を行うのと並行して、マーケティング側ではサービスをより便利に使って頂けるよう有料会員化施策を実行していく、組織内でバランスを取るようにしてきました。

また、こうして進めていくなかで、一つの課題に対して様々な角度でアプローチを検討できる形として、職種や部ではなく、課題ごとに取り組む形がいいのではないかと考えも生まれ、今後は部ごとに役割をもつのではなく、注力すべき課題ごとに取り組むチームを組成するなど、組織体制もその時々に適した形に変化させています。

 

-マーケティング部で行っていたような重要な指標にあわせて組織編成する動きが、開発も含めた組織全体に広がっているところなのですね。

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自身のユーザー体験をヒントにした施策でユーザーを拡大

-ここからは組織ではなく、施策面でのお話を伺いたいのですが、「マネーフォワード ME」のマーケティングにおいて、特に成長に貢献できた施策というのはどういったものですか?

浦田:自分が関わってきた中では、アプリ上でのユーザーコミュニケーションは進化させることができたと思っています。改善にあたっては、KARTEを導入したり、メールやプッシュ通知のメッセージも非常に気を配って行うようになりました。

個人的に、「マネーフォワード ME」は初期設定が難しいツールだと思っていて、家計簿アプリだと思って使うとかなりハードルが高いと思うんですね。これは最初のオンボーディングで説明が必要で、コミュニケーション部分に課題があると感じました。

 

-実は、私自身も3年ほど前に「マネーフォワード ME」を使おうとしたことがあるんですが、ハードルが高くて挫折した経験があります(笑)

浦田:私も入社した当時、難しくて使えなかったんですよ(笑)「マネーフォワード ME」を初期のころから使ってくださっているユーザーさんはもともとエクセルで家計管理をされていた方も多くて、「連携するだけで入出金情報が自動反映されてすごい便利!」と受け入れていただけたのですが、もともと家計簿をつけていない方からすると「連携って何?」「ネットバンキングのIDって何のこと?」となってハードルが上がってしまうんですね。

私自身も、入社してからカスタマーサービスの人に聞きながら自分のクレジットカードや電子マネーのアカウントを設定して、ようやくまとまった家計簿のレポートを見たときに初めて「すごい!」と思いました。そこで、アプリのユーザー数を増やすためには、お金のリテラシーがそこまで高くない方に「このアプリで何ができるか」を明確に伝える必要があるなと感じたんです。

ユーザーに「使うと何ができるのか」「どういう利益があるのか」、そういったベネフィットをきちんと伝えることを重視した施策に取り組んできました。

 

-ご自身がいちユーザーとして感じた課題と、市場を拡大するときのプロダクトの課題が合致していたんですね。

浦田:そうですね。既存ユーザーの方はお金やネットサービスへのリテラシーが高い方が多くて、ユーザー数が一定数を超えると新規ユーザーのターゲットとギャップがありました。

TVCMを打つ際にユーザーインタビューを重ねて調査した結果、「家計簿を付けている方」だけではなく「ネットバンキングを日常的に利用している方」まで対象を広げたほうが新規ユーザーのターゲットとして最適ではないかと考え、現在はその層をターゲットにしています。

この人たちがターゲットになり得ると思ったのは、マネーフォワードのアプリを使えば、「データが一括で見られるツールとしての便利さ」を体感できるからです。

ユーザー層を広げる上での具体的な獲得施策としては、ここ1年ほど、YouTuberを中心にしたインフルエンサーマーケティングを行っています。「マネーフォワード ME」を普段から利用してくださっているYouTuberの方を中心に直接連絡して、実際に使用している動画を投稿してもらうというのを月に1-2本ほど行っています。施策の成果は、前週との期間比較などで確認しているのですが、インフルエンサーごとに有料会員への転換率や継続率には差があるので、PDCAを回しながら取り組んでいます。

 

-「何ができるのかを明確に伝える」「インフルエンサーを用いた施策を行う」といったアプローチの方針は、どういった基準で決められているのでしょうか?

浦田:アプリのマーケティングは、特にツール系のサービスでは事例が少ないんですね。もちろん事前に調査ができれば数字で見込を判断するのがベストですが、やってみないと分からないという場合にはまずはコストをかけずに小さくトライし、成果が出そうであればより大きな予算をかける、というやり方を取っています。

 

-なるほど。まずは小規模でトライするところからなんですね。

今後、サービスとして「マネーフォワード ME」ではどういったことに取り組んでいく予定ですか?

浦田:「お金の見える化」という点では価値を提供できていると思うので、次は「見えたお金をどう理解するか」と向き合い、ユーザーに改善の提案をしていくことを目指しています。「自分は月々こんなにコンビニで使っているんだ!」というのが分かったユーザーに対し、「こうしたら節約できますよ」というように、次のアクションに繋がるアドバイスができるようなサービスにしていくことが次のステップだと思っています。

既に、ファイナンシャルプランナーに無料で相談ができる「お金の相談」や固定費見直しを提案する、「マネーフォワード電気」「保険の見直し診断」などはすでに始めています。

見えたお金に対して削減できる点を提案したり、相談先を作っていくことは今後もやっていきたいところです。

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マーケターは自分の強みを持つことが重要

-最後に、アプリマーケターへのアドバイスをお願いします。データを自分で集めて分析するスキルも大事というお話もされていましたが、これからのアプリマーケターに求められる能力や経験はなんだと思われますか?

浦田:マーケティングという役割は広くて、会社やチームによってかなり異なっていると思っています。なので私も含め、どうしてもジェネラリストであることが求められるのですが、それでも「どのサービスでも通用する自分の強み」というのがひとつはあった方がよいと思います。

あと、今後は数字ドリブンがどんどん求められてくるのではないでしょうか。数字とアイデアを両立させて自分の頭で仮説を考えるというスキルは、より求められるようになると思います。

 

-マーケターがそうしたスキルを身につけるために、やった方がいいことや積むべき経験などがあれば、ぜひ教えてください。

浦田:常に最終ゴールを考えるのは重要だと思います。日々の業務はどうしても作業になってしまいがちなので、KPIを設定するときも「何のためにやっているのか?」をはっきりさせ、チームとすり合わせながら考えていくことが大事です。

私は最近、約3年間関わってきたプロダクトを離れ、個人事業主向けサービスのマーケチームへ異動し、いちプレイヤーとして新しい環境でチャレンジしています。マネーフォワードでは、社員が自ら手を上げれば挑戦する機会があるので、別のプロダクトでも成果を出し、マーケターとして今よりも更に成長したいと思っています。

 

 

-本日はありがとうございました。

浦田さんご紹介 アプリマーケターにおすすめの本

マーケティングを行うためには、きちんとユーザーを知ることが重要だということを教えてくれる本です。自分のプロダクトを使っているユーザーがどういう方で、何に価値を感じているのか、真摯に知ろうと思えます。

次回のゲストマーケターは?

「日本のアプリマーケター100人」では、リレー形式で次のゲストマーケターの方をご紹介頂きます。マネーフォワード浦田さんからのご紹介は、株式会社mikanの飯田 諒さん。

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浦田さんからの推薦理由

学習分野のサブスクリプション型アプリとして、学生を中心としたターゲット層に対してどのようなマーケティングを展開されているのか、他社との差別化などプロダクトとしての工夫なども ぜひお聞きしたいです。

 

「日本のアプリマーケター100人」、次回は7月下旬を予定しております、お楽しみに。

 

マネーフォワードさんではアプリマーケターを募集しています。「マネーフォワード ME」のマーケティングにご興味がある方はぜひお気軽にご連絡ください。

https://hrmos.co/pages/moneyforward/jobs/mfhcmarke01

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