LIPS阿部栞氏インタビュー「アプリとWebの違いを理解し相乗効果を生みだす」
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本連載「日本のアプリマーケター100人」では、アプリ業界で活躍するマーケターさんをゲストに迎え、ご自身のマーケティングに対する考えや価値観、これまでの経験などをインタビューしていきます。第9回目のゲストは、稲垣勇登さん(TikTok For Business Japan)からのご紹介で、株式会社カウシェ取締役COOの前本航太さんをお招きします。
「シェア買い」ができるECサービスとして2020年9月にローンチした「カウシェ」、アプリの累計ダウンロード数は30万件を突破し、利用事業者数は約8倍に拡大、コロナ禍に急成長しているサービスです。「世界一楽しいショッピング体験をつくる」というビジョンを掲げ、マーケティング戦略における様々な仮説検証やブランディングに取り組まれてる前本さんへ、ローンチ1周年を迎えた「カウシェ」の裏側についてお話を伺いました。
前本航太氏 株式会社カウシェ 取締役COO プロフィール |
(聞き手:ナイル株式会社 高階良輔)
目次
ー本日はよろしくお願いいたします。前本さんは、宿泊予約サイト「Relux」のマーケターを経て、現在スタートアップのCOOとしてECサービス「カウシェ」を運営されています。まず、「カウシェ」とは具体的にどういったサービスなのでしょうか?
前本:「カウシェ」は「シェア買い」ができるECサービスです。購入者1人では商品を買うことができませんが、同じ商品を一緒に買ってくれる人を24時間以内に見つけることで、通常よりも安く買うことができます。
食品・飲料や日用品を中心に、約7千点ほどの商品を扱っていて、サービスをローンチして1年ですが、アプリのダウンロード数は30万DLを超え地方にも利用者が多いのが特徴です。スタートアップのサービスですと、最初はアーリーアダプターの多い東京のような都市部に利用者が集中しやすいかと思うのですが、着実に広がってきており、現在は東京以外が8割以上を占めています。
-グルーポン(共同購入型クーポンサービス)に近いサービスかと思いますが、モデルにされたサービスはありますか?
前本:モデルにしたのは、中国の「Pinduoduo(拼多多・ピンドウドウ)」という、EC最大手「Alibaba(阿里巴巴・アリババ)」の年間購入者数を抜いて急成長した共同購入ECサービスです。
「グルーポン」と似ているサービスなのかとよく聞かれますが、当時に比べスマートフォンやスマホ決済が普及し、SNS上でモノを見つけて購入するのが当たり前になってきているなどマーケットの状況が変化している点で今はより「共同購入」というシステムが市場に受け入れられやすいと考えています。
また、「カウシェ」では、商品割引によって購入意欲の高いユーザーが他のユーザーをSNSなどを通じて自発的に連れてくるという仕組みがあります。バイラル性を持たせている点が最大の特徴であり、大きな違いですね。
-「カウシェ」の購入者はどのような方が多いのでしょうか?
前本:「手間をかけてでもお得に買物をしたい」という主婦の方が多く、「安いものを買うために、少し遠いスーパーに行く」という節約意識を持っています。
東京では、タクシー移動やフードデリバリーを高頻度で利用するように、「お金よりも時間を優先する」というライフスタイルの方を多くみかけますが、全国的に見ますと「時間をかけてお金を節約する」という考え方のほうがマジョリティかなと最近感じています。
さらに、あえて手間をかけることで自己肯定感や達成感に繋がったり、買い物自体の楽しさを感じることにも繋がっているようです。
主婦の方の間ですと、「カウシェ」で商品を一緒に買う人をLINEで誘うケースが多く、普段から子育てや家事の情報収集に使っているInstagramのアカウントでもよくシェアされています。「カウシェ」での共同購入者の募集期限が24時間なので、24時間で投稿が消えるInstagramとのストーリーと相性が良いと思われます。
-主婦層のライフスタイルや節約意識とうまくマッチしているのですね、どんな商品が人気ですか?
前本:「まとめ買いしても困らない、普段使いするもの」が人気ですね。ビールなどの飲料や、ちょっと良い野菜なども人気ですし、子どもにすぐに食べさせられるようにと「カウシェ」で冷凍サイコロステーキをまとめ買いしておく、といったような使われ方もされています。
-非常に面白いサービスですね。日本ではまだ一般的ではないECの形ですが、大きな可能性を感じます。
-前本さんはカウシェの立ち上げメンバーでもありますが、「カウシェ」が誕生するまでの経緯をお伺いできるでしょうか?
前本:昨年、コロナ禍の中で会社を立ち上げたときは、どんなプロダクトをやるのか決めていませんでした。そこで、自分たちで何ができるか考えたときに「EC領域がいいんじゃないか」と考えました。
実は、日本のEC化率って非常に低くてまだ8%ほどなんです。コロナ禍の影響で急成長しているとはいえ、アメリカの15%と比べるとかなりの開きがあるんですね。日本の場合はまだ買い方に特徴のあるECは種類も少なく、非常に可能性があるマーケットだと感じました。
▲物販系分野の BtoC-EC 市場規模及び EC 化率の経年推移(経済産業省より)
-確かに、日本のECサービスは商材のジャンルで差別化しているものが多く、購入方法は画一的ですね。その点、「シェア買い」は新しい方法だと思いますが、新しいジャンルのターゲットを、「カウシェ」ではどのようにして決定したのでしょうか?
前本:ターゲットから決めるのではなく、KPIツリーから検討していきました。前職等の経験から、ECサイトが定着するためには早い段階から継続して買ってもらうことが重要と考えていたので、購入頻度や30日以内の再購入率を重視しました。
KPIツリーから商材を決めていくにあたり、「シェア買い」という特徴を考えると、購入頻度だけではなく「自分も同じものが欲しい」と多くの方が思える商材であること、相場感覚が普及していて「これはお得だ」とわかってもらえるような商材であることも必要でした。
そうして、重視するKPIと自社サービスの特徴どちらもを考慮した結果、最初に注力する商材は「食品・飲料」が最適ではないかと考えました。食品・飲料をもっとも購入するのは主婦層であるという理由から、ターゲットを主婦層に決定したという流れになります。
-ビジネスモデルを固めてからKPIツリーを検討し、KPIから商品の選定、商品からターゲットの選定を経てMVP(Minimum Viable Product、必要最低限の機能を持った試作品)の開発に入っていくというのは、非常に綺麗なストーリーですね。
前本:事業を始める際、多くの場合は「誰に何を」の順で考えるかと思いますが、「カウシェ」の場合はモノから入って誰に対して喜んでもらえるのかのイメージができたので、開発を進めていきました。
とりあえずサービスをローンチしないと始まりませんし、改善はユーザーの声を聞いて行うべきだと考えていたので、最低限の機能だけを備えた形でローンチしました。
ローンチ後にMVPで検証したかった仮説は主に2つ、「日本でシェア買いという仕組みが成り立つのか」「ターゲット(主婦層)と商材(食)は合っているのか」です。
-実際にローンチしてみて、いかがでしたか?
前本:リリース初期はスタートアップ界隈を中心に盛り上がったのですが、そもそも「メインユーザーは主婦層」という自分たちの仮説が当たっているのかやや不安がありましたね。正直、盛り上がってすぐに利用者が減りましたし(笑)。結果論としては正しかったんですけど。
-スタートアップあるあるですね(笑)。ただ、「カウシェ」の場合はスタートアップでよくある「どういうMVPを作るか」という課題に対し、非常にスマートだなと感じます。仮説検証をうまく回すために心がけているポイントなどはありますか?
前本:先にKPIを設定し、「そのKPIにどれだけ響くか」という効果と、「実行するうえでどれくらいの作業ボリュームか」という工数の掛け合わせで仮説に優先順位をつけています。それに加え、ユーザーからフィードバックをもらいながらひたすら改善していくという「トライファースト」なやり方を重視していますね。
-「仮説検証を素早く回せる」というスタートアップの強みを存分に活かしたやり方を実施されているんですね。
-ここまでサービス開発についてお伺いしてきましたが、サービスをどう広げていったのか、マーケティングの部分についても聞かせてください。
前本:「カウシェ」には「シェア買い」という特徴があるので、いまのところほぼすべてお客様による口コミで拡散されています。
人が人を呼ぶことでサービス利用者を増やす状況を作れた結果、ノンプロモーションでアプリのインストールを伸ばせている他、新規購入者の獲得単価も大手ECと比較して5倍以上も安く抑えられているというデータもあります。
-まさにソーシャル×ECという強みを活かした戦い方ですね。ブランディングの面でも、「カウシェ」では徹底して「シェア買い」という言葉を使われていますが、キーワードとサービスを近づけていくための戦略を、どのように組み立てていきましたか?
前本:そもそも、カウシェの購入方法は日本ではまだ馴染みがないものなので、「(自分たちのサービスを説明する)新しい言葉を作らないといけない」というのが当初から念頭にありました。
言葉のイメージ調査から始めたところ、「共同購入」という言葉はイメージがあまり良くないということが分かったんですね。特に、年配の方だと生協の共同購入のイメージを強く持っていましたし、個別配送ではなくまとめて配送されるものであるというイメージが強く定着していました。
また、過去に共同購入を想起するサービスでネガティブな体験をしたことがある方も一定おり、自分たちがこれからやりたい事とイメージが違うなと感じました。
そこで、普段コストコを利用されている人たちが非公式で使っていた「シェア買い」という言葉に注目しました。語感がよくキャッチーだったこともあり、「カウシェ」ではこれを採用することにしました。
ー「シェア買い」という言葉を使ったことで得られたメリットなどはありますか?
前本:メディアで取り上げてもらいやすくなりました。通常、メディアでは企業名やサービス名を直接的に取り上げてもらいにくいのですが、「コロナ禍でシェア買いがトレンドになっている」という事象は取り上げてもらいやすいんですね。
ただ、「シェア買い」という言葉を広めるだけではなく、「シェア買い=カウシェ」というイメージを作る必要がありました。
お客様がシェアしてくださる仕組みは構造的にサービスに組み込まれているので、どうシェアしてもらうのが良いのかをローンチ前からずっと考えた末、SNSに投稿する際に「#カウシェでシェア買い」というハッシュタグが必ず付くようにすることで、「シェア買い=カウシェ」のイメージを浸透させていきました。
-自社のサービスを的確に表現する言葉を使うことで、ブランディングを確立させていったんですね。開発からブランディングまで非常にスムーズに行われているように思いますが、逆にこれまでに仮説が外れていたり、施策が失敗した経験などはあるのでしょうか?
前本:数え切れないぐらいの失敗がありますが、ひとつはハロウィンの施策です。もともと、EC業界は季節性を意識してキャンペーンをすることが多く、季節品の仕入れを試したいとい思いもあって「カウシェ」でもトライしたのですが失敗でした。
ここでの学びとしては、運営がやりたいことをやるのではなく、ユーザーが求めていることをやるべきだということです。WHO(誰)にWHAT(何)をというのが抜け落ちたまま、HOW(どうやって)が先行すると、やはり結果が付いてこないというのを実感しましたね。
-着実に結果を出すためには、「WHO」「WHAT」がやはり重要なのだと気付かされるエピソードですね。
-「カウシェ」の今後の展開についてもお聞きしていきたいのですが、次に狙うターゲット層について何か考えがあるのでしょうか?
前本:「カウシェ」は、マイクロインフルエンサーやマイクロコミュニティとの相性が良いので、コミュニティ軸×商品という入り方があるかなと考えています。
たとえば「筋トレを熱心にやっている人たちがカウシェでプロテインを買う」といったことが実現できると思っていて、今後そういったマイクロコミュニティの開拓には力を入れていきたいですね。
-ターゲット次第で商材の拡充なども行っていくのでしょうか?
前本:はい、もう少し先になるかとは思いますが、ステージに応じてターゲットと商材を拡充は考えています。今はサービスとして、バイラルの仕組みが一定成り立つということが見えてきた段階なので、まずは主婦の方をメインにサービスの便益をしっかり伝えていくことに注力したいです。
その点でいうと、現在展開している食品・飲料において、一般的なECサイトで取り扱われている人気商品は一通りそろえる必要があり、それをやりきったら、今度は日用品などの購入頻度が高い別の領域に広げていきたいです。
「カウシェ」をよく利用してくださっているヘビーユーザーさんのお話を伺ってみると、買い過ぎて冷蔵庫にこれ以上入らないという「物理的な購入回数の限界」という問題が見えてきたので、そこを乗り越えようと考えますと、やはり領域の拡大は必要になってきます。
-前本さんは「カウシェ」にて、非常に明確なストーリーのもと、サービス開発やブランディングを実行されていますが、その根幹にはマーケターとしてこれまでどのような経験がありましたか?
前本:私の場合は、「Relux」でWeb広告の運用からキャリアをスタートさせました。実践を通じてマーケティングの基礎を学び、戦略に携わるようになって周りの人からさまざまな考え方を吸収していきました。
Web広告の場合、WHOやWHATを考えなくても、HOWからスタートしてある程度の効果を出すこともできると思います。しかし、HOWから考えてしまうと、大きな仮説が立てられませんし、飛躍的な成功にはなかなか繋がりません。
HOWばかりを考えてしまった失敗もたくさんありますし、WHOやWHATから考えることの重要性などを前職で当時の上司などから学んでいけたことが大きかったです。
-ローンチから約1年、急成長を続け資金調達もされていますが、「カウシェ」の立ち上げからマーケターとして携わるなかで、どんな学びがありましたか?
前本:はい、4Pすべてを考える経験ができているのは、非常に面白いですね。前職ではプロモーションに特化した仕事をしていましたが、どういう商材を仕入れるか、どういう人に何をどこで売るのかといったことまで考えながら取り組めるのは、非常に楽しいと感じています。
また、世界一楽しいショッピング体験をつくるというビジョンに向かって、どんなプロダクトにしていけばお客様に選び、使い続けていただけるかという本質的な価値を考え、実践しているのも個人としても日々成長に繋がっていると思います。
-本日はありがとうございました。
任天堂のWii開発の裏側を紹介した本です。「シェア買い」というカウシェのコンセプトを作る上で非常に参考になりました。マーケターの方に限らず、新規事業や企画を担当している方すべてにおすすめです。
「日本のアプリマーケター100人」では、リレー形式で次のゲストマーケターの方をご紹介頂きます。カウシェ・前本さんからのご紹介は、Rettyのプロダクトマネージャー田中 大登さん。
RettyでプロダクトのPMとして、どんな価値を提供すればいいかという本質を突き詰めていらっしゃるのでそういったお話が楽しみです!また、組織作りもとてもお得意な印象があるので、その辺りのお話もぜひお聞きしたいです。
「カウシェ」さん最新情報
▼採用情報
https://enjoy-working.kauche.com/
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