Retty田中大登氏インタビュー「ユーザー数4,000万人を抱えるRettyがプロダクト再設計に踏み切った理由」
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本連載「日本のアプリマーケター100人」では、アプリ業界で活躍するマーケターさんをゲストに迎え、ご自身のマーケティングに対する考えや価値観、これまでの経験などをインタビューしていきます。第11回目のゲストは、田中大登さん(Retty)からのご紹介で、LIPSの阿部栞さんをお招きします。
イラスト投稿サービス「pixiv」のグロースハックや、マンガアプリ「pixivコミック」の開発ディレクションなどを経て、現在は美容のプラットフォーム「LIPS」のアプリプロダクトマネージャーを務めている阿部さん。アプリとWebの両プロダクトに関わる経験から導き出される開発の思想や、CGMメディアにおける投稿施策についてお伺いしました。
阿部 栞氏 株式会社AppBrew LIPSアプリプロダクトマネージャー プロフィール |
(聞き手:ナイル株式会社 高階良輔)
目次
-本日はよろしくお願いいたします。まず、阿部さんのこれまでのご経歴について教えてください。
阿部:私は2015年に新卒でピクシブ株式会社に入社し、サービスのグロースハックを中心に行っていました。その当時はWebディレクターという肩書きでしたが、今で言うプロダクトマネージャーの領域と近いかなと思います。
その後、pixiv内のオウンドメディアの立ち上げに関わり、キュレーション記事の制作やクリエイターさんへのインタビュー、編集に至るまで一連の業務を担当していました。ここでSEOに初めて触れ、pixivユーザーの投稿コンテンツを元に検索意図にあわせたページ作りで、検索流入を上げられた成功経験が、自分にとって大きかったと感じています。
-元々はWeb寄りだったのですね。「LIPS」へはどのような経緯でジョインされましたか?
阿部:ピクシブでCGMを用いたSEOで成果を出せたことで自信がつき、自分の強みを生かし、更にSEOのスキルを高めたいとの思いから、株式会社AppBrewに入社しました。
「LIPS」はアプリからサービスをスタートし、アプリのユーザー数を伸ばすために認知を広げようと、アプリへの集客導線を増やす目的でWeb版の提供をはじめたのですが、このやり方ではコスパが悪いと感じ、Webは「将来のLIPSアプリユーザーの獲得の場」としてMAUを伸ばすことに注力しようと方向性を変えた時期になります。
本格的に開発体制がプロダクト別となり、自分はWeb部門で、検索流入でユーザーを獲得し、直帰率・滞在時間の改善に取り組んでいました。
▲美容のプラットフォーム「LIPS」
-「LIPS」のような大量のCGMを持つサービスにおいて、阿部さんがSEOで重要視していることはなんですか?
阿部:CGMの強みは膨大なページボリュームにあるので、「コンテンツの集合体のページが欲しい」ような検索ワードと、そうでない検索ワードがあることを意識し、広く浅くひっかかるキーワード選びが重要だと思います。
また、データベース型のSEO施策を考える際、人気があるキーワードを含むコンテンツを自動生成する方法が低コストで効果的ですが、それだけですと内容の薄いコンテンツが大量に作られてしまう恐れもあります。
検索意図にマッチした意味のあるページをいかにコスパ良く作るか、「自動生成で作った大量のコンテンツ」と「ユーザーが求める質の高いコンテンツ」の最大公約数を見つけることが考え方として大切です。
▲自動生成されたページ「アイシャドウ人気ランキング」(LIPS)
-これまでずっとWeb側でプロダクトに携わってきた阿部さんが、アプリへ移動したのはなぜですか?
阿部:今後、サービスを更に成長させるためには、ユーザーさんによる投稿コンテンツの数を増やすことが必要だったからです。それがなぜアプリだったのかと言いますと、プロダクトとしては1つですが、Webとアプリでユーザーさんのニーズが異なっていることが大きく影響しています。
Webの場合は「いま必要な情報をすぐに得たい」という方が多いので、欲しい情報を得て満足した後にクチコミを投稿するアクションに繋がりにくく、たとえUIや導線を変えたとしても投稿ユーザーにさせることは非常に難しいです。
それに対し、アプリは暇つぶしで、「見たいものが決まっていない」ユーザーさんが多い傾向にあるので、アプリ内滞在時間を伸ばすための改善策の1つとして、投稿に繋げる施策を考えることができます。
こうしたユーザーさんの性質の違いから、投稿数を増やすためにはアプリに注力する必要があり、Webからアプリへ移動することを決めました。
-現在、アプリでは具体的にどのような役割を担当されていますか?
阿部:アプリの場合、InstagramやTwitter、Googleが主な競合になるので、美容情報を調べたいと思った時に「LIPS」をあえて選んで頂く理由を作ることに取り組んでいます。
ユーザーさんのニーズはさまざまですが、大きく分けると2つに分けられます。1つはWebのユーザーさんと同様、特定の商品に関する情報を調べたい人。これは、YouTube等で紹介された商品のリアルな声を知ろうと、購入意思決定のセカンドオピニオン的に使われ方です。
もう1つは、「LIPS」に来れば可愛くなれる情報が揃っているから、暇つぶしになんとなくアプリを開く人。前者のような人達に対してどういう情報を出すべきかを考える際には、Webで培った経験が活かせるのですが、後者は全くWebと異なるので非常に難しいなと感じました。
-Webで検索するユーザーとは異なる、アプリならではのニーズですね。
阿部:はい。「Webで検索するよりもLIPSで検索した方が欲しい情報が手に入る」と感じて頂けるよう、LIPSでは「ユーザーの口コミを絞り込める」機能を実装しています。
ユーザーさんが検索時に「この化粧水に対する、自分と同じ肌質の、20代の人の感想が知りたい」といったように、より自分が欲しい情報を見ることができます。商品の情報だけなら他の競合サービスにも沢山ありますが、ユーザーさんが投稿するクチコミを活かした「LIPS」ならではの検索機能です。
▲絞り込み検索機能
また、アプリのオンボーディングで「どちらのクチコミが好きですか?」という選択肢を出し、ユーザーさんが求めている情報を把握するようにしました。アプリをダウンロードした初期段階は、肌質や年齢、好みの投稿のデータを元にパーソナライズを行い、その後は閲覧履歴からリアルタイムでレコメンドを出すようにしています。
この他にも、ユーザーさんの好みによりマッチした情報を提供するためのアルゴリズム改善には色々と取り組んでいます。
-なるほど。そうした機能改善を行う上で、投稿数が重要になってくるのですね。アプリの方で投稿数を増やすことがデータベースを強くし、結果としてWebの検索流入を増やせると。
阿部:その通りです。結局、コンテンツのボリュームがないとその人が満足する情報を提供することができないので、情報量(=投稿数)を増やすことを重要KPIに設定し、注力してきました。
-Webとアプリ両方を経験する阿部さんに伺いたいのですが、「アプリで通用するWebの考え方」はありますか?
阿部:そうですね、私は一度転職したぐらいの違いを感じましたが、Webを経験しているからこそ、アプリで活かせる点は確かにあります。
たとえば、Webですと「1回来てもらったユーザーをいかに出さないか」という視点が重要ですが、これはアプリのページ作りにも通用する考え方です。
アプリは一度起動してもらえたら、ある程度回遊してもらえるだろうと、離脱に対する恐怖感がWebよりも薄く、対策が荒いように感じることが多かったので、Webの知識が活かせると思いました。
あと、「特定の商品の情報が欲しいユーザーに対して、どういうコンテンツを出すべきか」といった考え方も、Webとアプリで共通していますね。
-「LIPS」におけるWebの役割は「将来のLIPSアプリユーザーの獲得の場」でしたよね。検索流入でたまたま入って来たユーザーにサービス認知させていくのは難しそうに感じますが実際はどうですか?
阿部:「何を検索してもLIPSが出てくる」という状況を作れると、サービス認知に繋がると感じています。特に、データベース型の投稿メディアは認知がされやすく、競合がそこまで多くない市場であれば比較的認知はされやすいです。
あとは、投稿の内容に独自性、コンテンツの差別化ができていることも大きいかと思います。「LIPS」の投稿は、SNS上で”LIPSあるある”としてネタにされるほど、ユーザーにコンテンツの特徴が知られているんです。
本来はいろんな種類の投稿がされるプラットフォームであるべきだと思うので、それが必ずしも良い現象だとは捉えておりませんが、「LIPSらしさ」がユーザーに知られているというのは、認知が取れているからだと受け止めています。
-サービス名だけではなく、カルチャーとして「LIPS」が認知されているというのは、すごいですね。WebでMAUを伸ばし認知を広げることが、直接アプリの集客に繋がらなかったとしても間接的に貢献していると。
阿部:そうですね。なお、以前Googleのコアアルゴリズムアップデートの影響でMAUを落としたときに、アプリのCPIも同時に減少したことがあったので、一定の相関関係があるとは感じています。
-ここで少しマネタイズについてもお伺いしたいのですが、「LIPS」における収益のメインはどこになりますか?
阿部:純広告です。少し前まではアドネットワークも使用していたのですが、ユーザーさんから見たときに広告が多すぎるということもあり、現在は行っていません。
「LIPS」ではそもそも、純広告をサービスの収益源にしようと狙っていたわけではなく、ユーザーさんの熱量・ロイヤリティの高さがクライアントに評価されてきたことで自然と収益の柱になりました。
-多くのメディアがアドネットワークを中心に収益をあげている中で、純広告を獲得され続けているのはすごいですね。
阿部:ユーザーさんへの認知が上がると、自発的に商品のクチコミを投稿してくれるようになるんですよね。また、サービスとして「ユーザー数を集めれば成長しやすい」との考えのもと、集客を優先してきたので、メディアとしての規模を大きくしてきたことが、純広告の増加に繋がっているのではないかと思います。
-Webとアプリどちらも持つサービスの場合、最終的に目指すゴールは同じだと思うのですが、連携させておくべきポイントがあれば教えて下さい。
阿部:「LIPS」を例にお話しますと、Webとアプリで求められるコンテンツが異なるので、両者の要望をすり合わせてテクノロジーで解決することが重要だと考えています。
WebのSEOを考えると、投稿にはタイトルを必ず付けてもらう方が良いです。しかし、タイトルを必須にすると、アプリユーザーに対する投稿のハードルが上がってしまうんです。
WebはMAU、アプリは投稿数と、お互いに追っている指標が異なるため、チーム間でコンフリクトが起きてしまいますが、「LIPS」では自動生成でタイトルを付けることによって、Webとアプリのバランスを取るようにしました。
▲タイトルが自動生成されているWebページ(LIPS)
-うまく連携するためには組織の体制も重要だと思いますが、「LIPS」の組織体制はどのようになっていますか?
阿部:まず、基本的な考え方として、そのときに必要なことを全員でやる「全員PM」という考え方を採用しています。アプリ・Webでそれぞれバラバラで考えるのではなく、全員が事業者目線を持って取り組むという思想が重視されています。
プロダクト開発においては、アプリとWebでコンフリクトさせないよう、SEO部隊を開発チーム内に置くことで、「SEOを考慮することを前提にした開発組織づくり」ができています。
一般的に、マーケターがエンジニアに対してSEOのアドバイスをするケースが多いと聞きますが、それではSEOのための開発が新たに発生してしまいます。部署を分けるのではなく、最初からSEO部隊がエンジニアと同じチームに所属していれば、SEOを前提とした開発ができますし、エンジニアのモチベーションもあがります。
PMだけでなく、エンジニアも巻き込み、SEOで検索流入を上げるというミッションを共に追い、施策を行っていくことが重要だと思います。
-開発チームにSEO担当のマーケターを置くことで、マーケティングの部署と領域が被ることはないのでしょうか?
阿部:「LIPS」のプロダクト部門は、SEOを含めたWeb、アプリ、マーケティングの3チームに分かれていて、マーケティングチームはSEOに触れず獲得だけを担当し、獲得以降はWeb・アプリチームが担当しているので、基本被ることは少ないです。
また、「獲得したユーザーにこういうコンテンツを見せたい」というイメージが広く共有されているので、獲得した後も積極的にマーケティングとWeb・アプリチームで情報を共有して動いています。
-「Webとアプリは同じチームが担当するべきだ」という考え方と「別々に担当するべきだ」という考え方がありますが、阿部さんはどちらが良いと考えていますか?
阿部:個人的には、アプリとWebの担当を分けた方が良いと考えてます。
担当が同じですと、Webとアプリどちらもを考慮した中途半端な施策になってしまうと思います。なので、多少スピード感が落ちたとしても、担当者を分けて足並みをそろえるのがよいと思います。
-今後「LIPS」が提供していきたいユーザーへのベネフィットはどういったものなのでしょうか?
阿部:美容に関するすべてのことができるオンラインサービスでありたいと考えています。商品の発見・比較・購入・発信が一気通貫でできるサービスを目指していますね。
それから、ユーザーの熱量が高いというのも「LIPS」の魅力だと思っています。今後も投稿を中心として、ユーザーの熱量を高めるサイクルを作っていきたいです。
-最近、自社EC機能も実装されましたよね。
阿部:大量の商品を扱うような大型通販サイトですと、購入体験はスムーズですが商品比較に使える情報が少なく、偶然の商品との出会いも限られています。
逆に、他の投稿サイトは比較情報や商品との出会いはあるものの、まだまだ購入体験が不十分なことが多いので、一気通貫できるサービスにできれば、勝ち目があると考えています。
▲新機能「LIPS ショッピング」
「LIPS」はもともとコミュニティからスタートしたサービスです。ユーザー数が多く熱量も非常に高いうえに、それを後押しする仕組みもあるので、これからも十分に市場を狙っていけると考えています。
-最後に、阿部さんと同じく、Web出身でこれからアプリ業界を志すような方たちに対し、どのような考え方やスキルが必要となってくるか、ご自身の経験からアドバイスがあれば教えてください。
阿部:Webグロース、とりわけSEOに関しては外的要因があまりに多く施策結果を完全に定量的に測るのは難しいですが、アプリの場合定量で語れる要素が多いため、SQL等分析スキルは必須だと思います。
また、定量評価に加えて定性的な肌感を得るために毎日AppStoreのランキングをウォッチするくらいアプリの最新トレンドを把握しておくと意思決定に説得力が出ます。
-本日はありがとうございました。
アリステア・クロール (著)『Lean Analytics』
appの開発に携わることになった時真っ先に読みました。具体的なビジネスモデルや成長フェーズごとに見るべき指標が紹介されているのでKPI設計に役立ちました。スタートアップ関連の書籍は事業立ち上げに関する話題が多い印象ですがこちらは既存プロダクトのグロースについて事例付きで説明してくれるので実用性がありました。
難易度的にはかなり易しいですが、どんなにGoogleのトレンドが変わっても変わらない本質を説明してくれているのでSEO入門書として会社に一つあると便利です。Google公式ガイドラインの次におすすめです。
「日本のアプリマーケター100人」では、リレー形式で次のゲストマーケターの方をご紹介頂きます。LIPS・阿部さんからのご紹介は、YOUTRUSTの大前 宏輔さん。
実は面識はなかったのですが、今一番お話を伺いたいマーケターとして真っ先に頭に浮かんだのがYOUTRUST大前さんで、今回お声がけさせていただきました!各メディアでの発信やYOUTRUSTが仕掛けるマーケティング施策から、大きく企画を踏む大胆さと、戦略的に施策を練るスマートさをひしひしと感じています。インタビュー記事を読めるのが楽しみです!
<AppBrew 最新情報>
LIPSのC向けPdM、B向けPdM両方絶賛募集中です!
https://herp.careers/v1/appbrew/D4NQw7z1MQpt
https://herp.careers/v1/appbrew/g5dwRfk4WDs4
AppBrewでは各ポジション採用強化中です!気軽にご連絡ください!
https://herp.careers/v1/appbrew
AppBrewメンバーと気軽に話したい方はこちらからどうぞ!
https://meety.net/articles/t2–hkcemwb4dr
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