ミラティブ・清基英峻氏インタビュー「市場と人を繋ぐWHO分析が成功の鍵」

ミラティブ・清基英峻氏インタビュー「市場と人を繋ぐWHO分析が成功の鍵」

本連載「日本のアプリマーケター100人」では、アプリ業界で活躍するマーケターさんをゲストに迎え、ご自身のマーケティングに対する考えや価値観、これまでの経験などをインタビューしていきます。第3回目となる今回のゲストは、ミクシィ・道下さんからのご紹介で、ゲーム配信サービス『Mirrativ以下、ミラティブ)』のマーケティンググループ・マネージャーの清基さん。

清基さんは新卒で入社したP&Gにて国内外のマーケティング戦略に関わり、その後Google  にてGoogle Play のマーケティングを担当。今年に入り、マーケティング組織立ち上げのため、株式会社ミラティブへ。

これまでに数多くのプロジェクトを成功させてきた清基さんのベースにあるのは、市場と人を繋ぐ徹底した分析思考です。アプリに限らず、どんな分野でも役に立つ、そのアプローチについてお話を伺いました。

 

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清基 英峻 (株式会社ミラティブ マーケティンググループマネージャー)

プロフィール
新卒でP&Gに入社。アジア本部のシンガポールにて、日本・東南アジアのマーケティング戦略に携わる。2018年にGoogle に転職し、Google Play のマーケティングを担当。2021年にマーケティング組織立ち上げに、株式会社ミラティブへ入社

 

(聞き手:ナイル株式会社 高階良輔)

 

課題は「定量」で、真因は「定性」で見つける

-清基さんのマーケターとしてのキャリアはどこからスタートしたのですか?

清基:私は新卒からマーケティングに関わっていました。P&Gに入社し、消費者市場戦略部門と呼ばれる、ユーザーの課題を定量的に分析して戦略を考えるチームで、日本国内のヘアケア事業からはじまり、東南アジア諸国のマーケット分析・戦略などを担当していました。

 

-綿密な「WHO分析」などで知られるチームですよね。昨今、P&G出身のマーケターさんが非常に活躍されているので、本日は清基さんからどんなお話が伺えるのか楽しみです。具体的にどういったプロジェクトを担当されていたのでしょうか?

清基:

一線で活躍されている大先輩には程遠く及びませんが、本日はよろしくお願い致します(笑) 

マーケターとして良い仕事が出来たと印象に残っているプロジェクトの1つが、インドネシアのヘアケアを担当していた時のことです。インドネシアにおけるコンディショナーの販売が長年苦戦していて、数多くの施策を行ってきたのですが、女性への普及率が10%以下という状況でした。特に低所得層での普及率が低く、単価の安い少量の商品も販売していたのですが、長年伸び悩んでいる状況でした。

 

-それだけコンディショナーが売れないというのは、なかなか想像しづらいですね。

清基:はい、私も最初は全く分かりませんでした。そこで、なぜインドネシアでは売れないのか理由を探るため、コンディショナーについての定量的な調査を行いました。そうすると「髪の毛は綺麗にしたいが、ベタベタするから買いたくない」という具体的な理由が挙がってきたのです。

日本出身の私には、この「ベタベタする」という感覚がよく分からず、低所得層の生活環境についてのデータを調べた結果、当時のインドネシアではシャワーが普及していないという事実に辿り着きました。そもそも蛇口から水が出ればまだ良い方で、ほとんどの家庭では、冷たい井戸水を手桶で汲んでいる環境だということを初めて知りました。

このように、定量調査で消費者が実際に置かれている状況がある程度見えてきたら、次は定性調査に移りました。現地の低所得層のご家庭を訪問し、実際にコンディショナーを洗い流すところを見せていただきました。冷たい水を手桶でかけているのでコンディショナーがうまく流れ落ちなくて、確かにべたべたしてすごく不快な状態になっていて・・・・。

 

-へえ、まさしく定量調査の通りだったわけですね?

清基:そうなんですよ。こうした調査と分析を経て、「洗い流せないことが問題なら、洗い流さないコンディショナーを販売すればよいのではないか」と考えるようになりました。

結果として、日本でも販売されている「洗い流さないトリートメント」の技術を転用した、「洗い流さないコンディショナー」が開発され、現在インドネシアのコンディショナー商品の中でもっとも成長している商品になっています。これは自分がやってきた仕事の中でも、特に気に入っている事例です。

 

-大変おもしろいお話ですね。「定量の調査で課題を探し、定性の調査でその真の理由と解決策を見つける」というマーケティングのよい事例だと思います。

清基:定量調査でイシューを特定してから、定性調査で肉付けをするというやり方は、自分のマーケターとしてのスタイルでもあります。そういう根本的な考え方はP&G時代に培ったものが非常に大きいですね。

 

-清基さんはその後P&GからGoogle への転職はどういう経緯だったのでしょうか?

清基:P&Gには約5年ほど在籍していたのですが、戦略を担当するなかで、「戦略だけでなく実際の施策実行もやりたい」と考えるようになりました。マーケターとして更にスキルアップするためには、上流から下流までを経験する必要があると感じ、それと同時に、自分が好きなゲームを仕事にしたいという想いが強くなっていたので、最終的にはGoogle Play のマーケティングチームへ転職を決めました。

 

-Google Play ではどんなことを行っていたのですか?また、P&Gで働いた経験から感じた、違いがあればぜひ聞かせてください。

清基:主にはGoogle Play のブランディングや、大型ゲームタイトルとの共同マーケティング施策です。Google Play でゲームを遊ぶことの価値を感じてもらうため、例えば東京ゲームショーのようなゲームのコアファンが集まる場所で、コアゲーマーを対象にした施策などを行っていました。他にも、Google Play でロンチされるの大型ゲームタイトルと共同マーケティング施策を行う機会が多く、好きなゲーム関わる仕事が出来たのはとても楽しかったです。

また、企業として両社の違いについてですが、自分の経験をベースに例えるならば、P&Gは組織化された軍隊、Google は個人事業主のような印象ですね。Google でのマーケティングは、身軽に仕事が出来る代わり、ノウハウは属人的な面が強かったと感じています。逆にP&Gはかなり組織化されていたので、チームとしての成果を出しやすい風土だったなと。

 

-どちらも経験された方のお話は大変貴重なので、おもしろいですね。

戦略から施策までを一気通貫、ミラティブでの新たな挑戦

-Google で経験を積まれた後、「自分が好きなゲームを仕事にする」という軸でいまのミラティブへと移られたのでしょうか?

清基:そうですね。P&Gでは戦略策定は出来たのですが施策の実行が出来ず、Google では施策の実行経験は積めたものの、戦略を考える部分までは叶わない環境でした。そのため、自分が今までやってきたことを活かしたいとの想いが強く、戦略から施策までを一気通貫で携わることができるミラティブにジョインしました。

ミラティブのマーケティング部署は、ゼロから立ち上げる状況だったんですよね。プロダクト開発との連携も出来て、今は自分がやりたいことをできている実感があります。

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-これまでの大企業のほうが安定しているイメージを持ちますが、正直抵抗はなかったんですか?

清基:清基:なかったですね、そもそもP&Gに採用されシンガポールにいた頃から、「結果を出せないと解雇される」というプレッシャーの中で仕事してましたから(笑)。私としても、成長痛を感じる環境でないと成長できないだろうと思っていますし、安定している場所に居続けることが、将来的には危ないのではないかと考えます。

 

-なるほど。ミラティブでは現在どういったミッションを持ち、これから何を達成したいと考えていますか?

清基:まず、プロダクト成長のための戦略・戦術策定に加え、組織作りが私のミッションです。2020年は非常に特殊な年で、コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたことを追い風に、多くのアプリ・サービスが総じて急成長したんですね。それが2021年に入って落ち着いてきたので、ここからは外的要因を抜きにし、『ミラティブ』本来の良さを打ち出す、より本質的なマーケティングを仕掛けていきたいと思っています。

理想としては、やはりマーケティングを通じてプロダクトを成長させることです。『ミラティブ』は、配信サービスの中でも他とはポジションが違う。『ミラティブ』は、いわゆる「友だちの家でドラクエをやっている」感覚になれるサービスなんです。配信する敷居が低いので、ゲーム配信に慣れた人だけではなく、幅広い人に配信の楽しさを知って貰えます。そういった『ミラティブ』ならではの良さを原動力に裾野を広げていきたいですね。

 

-『ミラティブ』のブランドとしての特殊性と、ご自身が考える勝ち筋が合致しているということですね。

清基:まさにその通りです。あとは「スマホゲームがあってこそのミラティブ」という面が強いので、ゲーム会社さんとの関係値もかなり強いサービスなんですね。そうしたゲーム会社さんとの繋がりを活かした取り組みもどんどんやっていきたいですね。

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▲「ミラティブ」サービス参考資料 https://speakerdeck.com/hr_team/mirrativ-letter?slide=13

成果を出すためには「なぜそれをやるのか」から考える必要がある

-ここまでのお話を伺っていて、マーケターが羨むようなキャリアを歩んで来られているなと感じたのですが(笑)、その分、寄せられる期待や責任も非常に大きいかと思います。清基さんがそうした環境で成果を出し続けられた秘訣は、どこにあると思いますか?

清基:いえいえ。まだまだ未熟者です。今までの仕事を振り返ってみると、成果を出すことができた一番の理由として、「自分の考え方を信頼している」ところにあったと思います。実は個人でYouTubeチャンネルを運営していた時期があるのですが、個人で運営していたにも関わらず、20万登録者を持つアカウントにまで育てることができたんですね。これまでの自分の考え方を裏付ける成功体験を通じて「ホワイトスペースに潜むユーザーの課題を定量で理解し施策を打つ」という自分のやり方を信頼できているのは大きいです。

 

-先程も、「定量調査でイシューを特定してから、定性調査で肉付けをするのがマーケターとしての自分のスタイル」だと言ってましたもんね。

清基:なぜ必ず定量からマーケティングをスタートさせるかというと「市場があるところで施策をしないと意味がないから」という考えが根底にあるからですね。ビジネスとしてインパクトを出すためには、市場があるところを狙わないといけないので「なぜやるのか?」「なぜこのターゲットなのか?」といった「WHY」が見つかるまで定量で調査をしようといつも考えていてます。

そもそも市場がちゃんとあるのか、ターゲットユーザーは何人いるのか、どこにいるのか、その人達に届けられるメディアを正しく選定できているのか、といった基本的なことができていないケースが意外と多いのではないかと思います。

 

-「市場があるところで施策をしないと意味がない」というのは非常に納得のいく考えですね。市場規模(ボリューム)を調べるための方法はいくつかあると思いますが、清基さんの場合はどういった方法を取っていますか?

清基:人口統計をベースに対象とする年代を出してみるなど、調査方法としては非常にベーシックなやり方になります。

先程のコンディショナーを例に説明すると、まず、インドネシアの人口統計からターゲットの割合などを調べます。次に、定量調査でコンディショナーの浸透率を把握します。そこから更に、コンディショナーを使っている人・いない人達の収入レベル、使っていない人の間でそもそも「髪を綺麗にしたい」ニーズがあるのかどうかを、コンセプト調査や定量調査で明らかにしていきます。

まとめますと、定量調査で見つけ出した「ニーズがあるユーザーの属性(経済状況など)」を、人口統計に掛け合わせることで市場規模を確認する。そして、ニーズはあるがプロダクトを使っていない理由を解明するため、対象ユーザーへ定性的な調査を行う順です。

 

-ベーシックなやり方だと言いますが、どこまでやり切っているマーケターがいるだろうかと感じますね。人口統計や販売データを見ようとする人は多いでしょうけど、「この属性のユーザーに定性調査をすれば解決策がわかる」というところまで探偵のように、定量で絞り込んでいくというのはやっぱりすごいなと。こうした手法はやはり最初のP&Gでの経験が活きているのでしょうか?

清基:ベースは確かにそうかもしれませんが、P&Gで学んだ手法に自分なりのアレンジが結構加わっていると思います。また、これまで全てが上手くいったわけではなくて、過去にこのやり方が通用しない状況に陥って失敗も経験もしました。

自分で戦場が選べない、要はビジネスの目的が最初から固定されている状態だと難しいですよ。例えば、パートナーが先に確定しているとします。もし、そのパートナーの都合でニッチな市場を選択するしかない場合、自分ではHOWしか選ぶことができないので失敗する可能性が高まります。マーケティングでインパクトを出すためには、意味のある市場にいくことが重要になってくるので、「なぜそれやるのか?」「それをやって意味があるのか?」という問題設定からスタートできないと成果を出すのは難しいと思います

 

-今のお話に出てきたような、HOWだけを求められる状況に置かれているマーケターも多いかと思いますので、ちょっと耳が痛い話ですね。

清基:そうですね、多いかもしれません。個人的には、ビジネスの目標を定めて、WHOとWHATが正しければ、HOWはどういうものでも成功すると思うんです。マーケティングで成果を出すなら、まず視座をあげて上流から考えていくのが良いと思います。

できる範囲で戦略・戦術を立てて成功体験を積むことが重要

-最後に、この連載を読んでいるマーケターの方に向けてのアドバイスをお願いします。清基さんは先程「マーケティングで成果を出すためにはHOWだけではなくビジネスの目的から考えていくことが大事」と話していましたが、そうはいっても上流になかなか関われないというマーケターも多くいると思います。そういう人に対して何かヒントはありますか?

清基:これは私個人の意見にはなりますが、シンプルに自分の環境を変えてみるのが良いと思います。上と掛け合って組織を変えていくのはなかなか難しいですし、そこに時間をかけるよりも、本質的なマーケティングが出来る場所に移った方が良い、というのが考えです。

 

-なるほど。もう1つ、マーケターとして成功したい若い人に向けて、どういう経験を積むのがよいか、必要なスキルやアドバイスがあればぜひお願いします。

清基:

繰り返しになりますけれど、マーケターはビジネスの課題から考えるというクセを付けた方が良いと思います。環境によっては難しいこともあると思いますが、まずは自分の責任が持てる範囲で良いので戦略・戦術を立てて成功体験を積むのが良いです。

自分が今やらなければならない目的に対して、対象とするユーザーはどういう人なのか、そもそもどれくらいのボリュームがあるのかを見直してみることは、仕事の規模感問わず、誰でもやってみることができるんじゃないかなと。

 

-定量で「市場があるのか」「ニーズがあるのか」を探し、定性で解決策を考えていくのが重要ということですね。

清基:はい。定量・定性の調査を通じてユーザー像を想像し、そこから戦略・戦術を立てていくこと、小さくても良いので成功体験を積んで自分のやり方を信頼できるようになっていくことが重要だと思います。

 

-本日はありがとうございました。

清基さんご紹介 アプリマーケターにおすすめの本

マーケティングの定義が広がり続けているなか、マーケターとして自分が置かれている状況で、何ができるのかを考えるうえでこの本が役立つと思います。

次回のゲストマーケターは?

「日本のアプリマーケター100人」では、リレー形式で次のゲストマーケターの方をご紹介頂きます。ミラティブ清基さんからのご紹介は、menuの二ノ宮さん。

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清基さんからの推薦理由

デリバリーアプリ『menu』の二ノ宮さんに、お話を伺いたいです。一般的に価格以外の差別化がなかなか難しいと思われるデリバリーの領域で、どういった戦略を持たれているのか。最近では地方へのデリバリーエリアの拡大や、それに伴う有名IPとのコラボ等、積極的なサービス展開を行っているのを拝見して、施策の裏側にどんな狙いがあるのか非常に気になります。

 

「日本のアプリマーケター100人」、次回は6月下旬を予定しております、お楽しみに。

 

 

 

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