【マーケター特別対談vol.02】ブシロード森下氏×FiNC湯通堂氏、イケてるマーケターは「分析の技術」を持っている

【マーケター特別対談vol.02】ブシロード森下氏×FiNC湯通堂氏、イケてるマーケターは「分析の技術」を持っている

ブシロードのマーケター・森下氏をホストに毎回ゲストを迎えたマーケター特別対談企画。本連載では、理想のマーケターに求められる様々な要素を、スキル別にそれを実践するスペシャリストの方と共に掘り下げていくことで、マーケターの皆さんにとって日頃の実務に役立つコンテンツをお届けしてまいります。

APP BRAINマーケター特別対談企画 Index(全3回)

vol.01 イケてるマーケターは「会計知識」を持っている
vol.02 イケてるマーケターは「分析の技術」を持っている
vol.03 イケてるマーケターは「プロモーションの技術」を持っている

森下氏:我々が主戦場とするモバイルゲームビジネスにおいて、事業戦略を遂行するための手段の多くがマーケティング領域です。前回の記事では会計知識がなぜ大切なのかを学びました。その上で今一度、下図のようなマーケティングフローを深く理解し、実務で活用できることが求められます。

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▲マーケターに求められるスキル(『データ・ドリブン・マーケティング』から引用 P40 図18)

モバイルマーケターの守備範囲=WEBプロモーション と捉えられている方は多いのではないでしょうか?WEBプロモーションスキルも大事ですが、それだけ出来たとしても上図の通り、マーケティングプロセスのごく一部分でしか貢献できません。ですので、マーケターとして、事業の売上や営業利益に最大限貢献し事業成長に責任を持ちたいのであれば、本記事で連載するすべてのスキルを習得する必要があります。

第2回 イケてるマーケターは「分析の技術」を持っている

ゲームと非ゲームのデータ分析事例を知ることで、マーケターとしての視野を広げる

森下氏:分析、とりわけデータ分析と聞くと「なんだか難しそう」「数字の羅列はみたくない」など色々な印象を持っている方が多いと思います。結論から申しますと、マーケターの最も大切な業務は「データ分析」なのではと私は考えております。

データ分析とは売上・営業利益を短期・中長期で改善する本質的な課題(それをイシューとも言う)を導き出す行為であり、極めて売上・営業利益をあげるための感度が高いため重要であると考えます。つまり、正しい判断・対応をするために分析が必要なわけです。感度が高いとは、その説明変数を1単位変動させると結果変数にどの程度影響を与えるかということです。その感度が非常に高い領域が今回紹介します「データ分析」のスキルなわけです。

本記事を読んでいる読者の方は、ソーシャルゲームに携わっている方が大半だと思います。私の考えとしましては、通常ソーシャルゲームのマーケティングというのは、よっぽどのことがない限りデータ分析で特殊な分析を行いません。

一方、非ゲームアプリでは「どうKPIを設定するか」「どう営業利益をあげるか」「そもそも、どうあるべきか」といったところから分析を始めることも多く、より発展的な分析を扱うことも多い印象です。今回は、非ゲームアプリのデータ分析事例を比較するでソーシャルゲームのデータ分析の敷居が実は低いことを理解してもらいつつ、非ゲームアプリのデータ分析手法を通じてより深い知識を身に付けることが目的です。

<対談ゲスト紹介・プロフィール>

湯通堂 圭祐
1989年、東京都生まれ。高校卒業後、上智大学理工学部に進学。 2013年株式会社マクロミルに入社。拡大推計POS事業、家計調査事業、店頭消費者行動調査事業など複数の事業立上げを担当。新卒MVPを受賞。 2016年株式会社FiNC(現株式会社FiNC Technologies)に入社。データ分析、グロースハックチームの立ち上げ、アプリ開発責任者を担当。2020年4月から経営企画室の室長に就任。

データサイエンティストから経験は経営にも活かせる

湯通堂氏:私は「株式会社 FiNC Technologies(フィンクテクノロジーズ)」という、ヘルスケア領域の課題解決をするアプリを提供している会社で、経営企画室の室長をしています。CEOの考えや実現したいことを中期経営計画に落とし込んだり、管理会計や人事戦略を各部署と連携しつつ、戦略を練る部署です。

森下氏:前職ではデータサイエンティストとして分析に関わられていたんですよね。

湯通堂氏:FiNCに入社したのは4年前ですが、前職ではデータサイエンティスト兼新規事業開発担当として、BtoBマーケティングデータ販売事業に携わっていました。FiNCでも最初は新規事業担当でしたが、アプリリリースのタイミングで「前職でデータ分析やってたよね」とデータ分析チームの立ち上げプロダクトマネージャー、アプリ部の部長をやらせていただいてました。

BtoBからBtoC、実務からマネジメントまで幅広くやっていたので、その知識を活かす場所として、今年から経営企画室を作りました。

森下氏:湯通堂さんは元々がデータサイエンティストですし、室長とはいえ実務にも関わっている方なので、実践的な話もご存知だと思います。ゲーム以外のアプリがどういう分析を行っているのか、またそれを通じて売上や営業利益にどう貢献しているのかを教えていただければと思います。

 

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▲図:事業戦略立案における思考プロセス(森下氏作成)

 

マーケティングにはいろんなフレームワークがあって、順番としてまず「世の中はどうなっているのだろう」というマクロ環境を分析するPEST分析を最初に行います。厳密に言うと常に行います。具体的には統計データです。合計特殊出生率の推移や実質GDPの推移などの統計データ、各省庁のHPでUPされる統計データから金融・政治・経済にまつわる様々なデータは日々アップデートする必要があります。

「いやいや、アプリマーケターなんだからアプリのことだけわかってればいいじゃん」と思われる方も多いと思いますが、目の前で起きている現象の多くがマクロ環境の変化の複合で起きていることが多いのです。

「新型コロナウイルスの感染拡大で、FiNCアプリを使っているユーザーさんの平均歩数が減った」といった形で、世の中のマクロの情報と目の前のデータの数字は繋がる最たる例です。

僕らマーケターは「世の中はいまどのような変化が起きているか」を日頃からインプットしないといけません。それがないと目の前のデータの解釈を見誤ることになります。

そのうえで、3C(競合・自社・顧客)などのミクロなフレームワークも知っておかないといけないし、それら3Cを分析するにあたってマーケティング的な視点で分析を行いつつ、経営的な視点での分析も行う必要があります。その結果、相対的な自社の強み・弱みが明らかになり、マクロ環境を反映した機会や脅威が明らかになります。

それらを掛け合わせたクロスSWOT分析を通じて、最終的なマーケティング課題を特定することが一般的です。

データ分析することで、正しい打ち手が見つけられる

森下氏:では、具体的にゲームの話をしたいのですけど、まずソーシャルゲームのアプリを作る場合「MMRPGにするのか、音ゲーにするのか」といったゲームジャンルや「MMRPG×人気マンガのIPを搭載するのか、それともMMRPG(NON IP)にするのか」といった搭載するIPの違いで、ある程度の市場規模は決まります。さらにキャラクターデザインという変数も入ってきます。

ゲームジャンルが決まれば、おおよそ鉄板パターンのゲームサイクルが決まります。「ゲームサイクルとしてどれだけ深みがあるか」というのはゲームジャンルという制約条件である程度固定されるということです。その制約を解放する役割がIPの広がりなわけです。以上のことから「ゲームジャンル(システム)」「IP」「キャラクターデザイン」が決まれば、おおまかに想定できる売上のトップラインが見えてくるわけです(ただし、すべての品質(アートの質、ソースコードの質など)が競合と劣らない前提)。

なぜならば、ここまでレッドオーシャン化した市場に必ずといっていいほど先行している類似アプリがあり、そのアプリの売上・MAU・DAU・PUR・MARPPUは外部ツールでざっくり取得可能だからです。それを元にコンサバティブに目標を立てれば、おおよその未来予測は可能です。それから、売上の8割を2割のユーザーが作るというパレートの法則はゲームでもゲーム以外のアプリも当てはまります。

なので、ここでデータ分析が必要になって来るわけです。、お金を払ってくれるユーザーとそうでないユーザーを分けて「お金をたくさん払ってくれるユーザーがどれくらいいるのか」「そういったユーザーが時系列でどれくらい離脱しているのか」といったデータをトラッキングする必要が出てきます。現状を正しく認識するステップです。

よくマーケターの方でもDAUが大切だと言う方が多いですが、半分合ってて半分間違ってます。ソーシャルゲーム単体で話をするのであれば「課金者DAU」が大切です。半分合っていると言ったのは、どのレイヤーの人間が発言しているか或いはどのようなビジネスモデルの会社かによってDAUが正解になることもあります。

当社はIPを開発することを生業としておりますので、IPとしてのPLが未来どうなるかという観点が重要です。ですので、アプリの課金者DAUも大事ですが、基本的にはIPファンの母数となるDAUがどの程度いるかを重要視します。それはマネタイズの手法がゲームだけでなくライブ、MD、放映権収入、CD・BDなど多岐にわたるためです。IPのPLとして経営目標を達成できればアプリでマネタイズしてもMDマネタイズしても何でもいいのです。そういった意味で当社のビジネスモデルにおいて重要視する指標はDAUであることが多いです。

ゲーム単体の話に戻りますと、たとえば「月10万円以上払ってくれるユーザーが先月は500人いたけど、今月は250人に減ってました」となると、その半分のユーザーが「どこに行ったのか」「そもそもやめたのか」「やめずにログインしているけど無課金化したのか」「10万円以上課金ではなく、商材不足により20,000~49,999円の課金層にダウンしたか」などを分析する必要があります。それぞれの課金クラスターの傾向をトラッキングできないと、正しい打ち手が出せないです。そういう意味で、大まかな仮説を立てるためにもまずはデータ分析をすべきです。

たとえば、課金してくれているユーザーの割合は変わらないのに、月ごとの売上がどんどん減少しているゲームがあったとしますよね。下図はおおまかなゲームの健康診断表、つまりこのアプリのどこに問題があるかというのを簡単に把握するシートです。

 

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▲参考:プロジェクト分解シート(ブシロード様)

 

「プロジェクト分解シート」と呼び、売上が落ちたりしているとき、なにが問題なのかを特定するために使うものになります。タテ軸がレベルの進度で、ヨコ軸が時系列になっていて、右斜め下にいけばいくほどエンドコンテンツにたどり着くというイメージです。

ガチャを主としたマネタイズのポイントがどういった内的モチベーションと外的モチベーションによって繋がっているか可視化するためにこういったのをまず出します。もっと言うと、これは本来ゲームを作る前に出来ていないといけないものです。開発前にこのシートが出来ていて、形成合意ができた上で開発を進めないといけない。

よくあるのが、このシートを作らず開発に着手してα版で「追加でこんな機能もいれよう」などという議論です。このような議論は上記のような設計図が綿密に練られていたら、無いはずですが様々な開発現場を見てきた経験上、このような進め方がほとんどの印象です。α版、β版で確認すべきことはあくまで「最初に握った設計図通りに進捗しているか」の確認であって「追加の機能実装検討」ではありません。

うちは開発前にこの図を書いていたり、諸事情によって開発前に書けなかったプロダクトに関しては、リリース前のマスタ版をプレイしてプロジェクト分解シートを作り、このままだとおおよそ、この箇所で離脱が起こるであろう仮説を立てます。そして、リリースしてすぐに改修に入れるように指示出しの準備を行います。売上の減少を止めるためにも「プレイヤーが最終的に何を達成したらハッピーなのか」「そのためには何が必要なのか」といった課題の特定をしていく必要があります。

 

▲参考:分析によって得られた課題と解決策(ブシロード様)

こうして特定した課題をもとに、あるべきゲームサイクルを描きます。たとえば月に10万円課金をするユーザーの課題を特定するために、テストプレイで実際に10万円課金するユーザーのと同じ遊び方でプレイしてみます。そこから想定される離脱要因の仮説を立てます。出てきた課題をもとに「上限突破をしよう」だとか「サーバーをまたいだエンドコンテンツを実装しよう」だとか打ち手を出して開発側と実現可能性をすり合わせて実装まで持ち込みます。

世の中のトレンドと、個人のトレンドをあわせて読むことが必要

森下氏:ゲームの事例はこういう形なのですが、ここからはゲーム以外のアプリの事例を湯通堂さんに教えていただきたいです。

湯通堂氏:非ゲームアプリもゲームアプリのプロセスと似ていると感じます。FiNCはもともと「AIでダイエット」というコンセプトのアプリでした。ダイエットニーズには波があって、1月の「新年の誓い」のタイミングで急増します。逆に、12月は飲み会や忘年会が多いので、ダイエットしようという人は少ない。

 

▲参考:Google Trend「ダイエット」(2018年1月-2020年6月)

ダイエットサービスは全てこの流れなので、1月にユーザーは最もお金を使います。余談ですが、1月以外で波が来た例だと「令和」です。あの時はGWが長く、長い休み明けに「令和」がスタートしたので年末年始と同じ波がありました。

4月以降は外出自粛による影響もありました。家で料理をするのが面倒な人がデリバリーを頼むようになり、しかも外で運動も十分にできなくなった。結果、運動しなくなったことで睡眠時間が短くなったり気分が落ち込みやすくなるなど、体の不調が出ていました。こういう世の中の動きが、どう人に影響を与えるかをデータと合わせて分析するのはマーケターに必要な要素ですね。

森下氏:まさに先程伝えたPEST分析と目の前の分析データを組み合わせて、現象として何が起きているか捉える力ですね。

湯通堂氏:ヘルスケアに限って言うと、世の中のトレンドと並んで「ライフスタイル」も重要な要素です。女性なら厄年とされる32・33歳あたりで体が疲れやすくなり、男性であれば40歳前後で健康診断の結果が気になり始める。具体的な変化があるから、健康に課題を持つようになるし「どのサービスが一番いいだろう」と考えるようになるんです。

なので、大きな世の中のトレンドと、ひとりひとりのライフスタイルのトレンドをあわせて「誰に対していつどのように訴求していくか」「どのようにアプローチしたら課金してくれるのか」をマーケターは肌感として持ってないといけません。

もう一つお話したいのが具体的な改善のお話です。FiNCのコンセプトは「体の全てをひとつのアプリに」で、「フィンクちゃん」というキャラクターが、痩せるための方法を教えてくれるアプリだったんです。一人ひとりの身体に合わせて、記事・動画コンテンツを提供すれば、みんな継続できるし痩せるだろうという発想です。

 

▲アプリ『FiNC』サービス初期の画面デザイン(FiNC様)

ところが登録した日から時系列でユーザーデータを見てみると、継続している人って「記録」機能を使っていました。フィンクちゃんがアドバイスしてくれる機能も、時間が経つにつれて使われなくなっていた。使われ続けていたのは「ポイント」機能だったんです。「ライフログを記録して、ポイントを貯める」というのが、FiNCユーザーのメインの体験だということが分かりました。

 

▲アプリ『FiNC』新規ユーザーのアプリ利用状況(FiNC様)

ダイエットや健康といったヘルスケアのコンテンツは、どちらかというとトレンドがありません。「こうしたら痩せる」という方法はもう決まっているので、1日2回ぐらい記事や動画を見たらユーザーは内容を覚えてしまう。なので、僕たちは「健康のための行動が記録できる」「さらに記録で貯めたポイントでお得を感じられる」という方針にシフトしていきました。

 

▲現在のアプリ『FiNC』のサービスイメージ(アプリストアより)

そして改めて作ったのが今の形です。当初のメインだった記事や動画のコンテンツをメインから消して、ポイントでお買い物ができるストアを作り、ライフログをするともらえるポイントを使って、なんとお茶や食品やお米がおトクに買えますよ、という訴求に変えました。

 

▲サービスコンセプトの変更前/変更後(FiNC様)

それにあわせて、トップページも「記録」の画面に変えて、みんなが知りたかった消費カロリーや、今どれくらいカロリーを摂取しているかをひと目でわかるように変えました。これは嬉しい誤算だったのですが、この変更により「記録するユーザーが増える」とは想像していました。でも、記録率だけではなく滞在時間も改善しました。

 

▲新しいアプリ内TOPページの画面デザイン(FiNC様)

森下氏:意外ですね。記録して、ポイントもらって、商品購入が目的であれば、記録した時点でセッション切りそうですけどね。

湯通堂氏:要は、これまでは「記録をしたい人のためのアプリ」だったのがトップページを変えたことで「ヘルスケアの活動をしたい人が記録をして、コンテンツも見る」という導線に変わりました。記録をすることにで自分事化が進み、結果的に全ての導線の滞在時間が増えました。今まではプロデューサーが属人的にやっていたことを、システム的に分析したら数値がよくなったという例です。

▲FiNCアプリのユーザー回遊サイクル(FiNC様)

次の段階として考えているのは、「おうちで出来ることを記録したらポイントをもらえて、消費カロリーの記録にもできる」という設計です。今だと歩数や体重だけを見ているけれど、掃除とか皿洗いでもカロリーは消費されるのでこれを追加するイメージです。ここも「どういう数字で、どこに課題があって、どこに数字の変化が起きるか」といったことをデータから見て施策を打つ必要があるので、マーケターのデータ分析が必要です。「どの課題の優先順位が高いのか」を見極める必要もあります。

森下氏:ゲームと比べると、FiNCのような非ゲームアプリとりわけ先行事例の無い領域はユーザーのニーズがわかりにくいと思うのですが、FiNCが今までの現状があるべき姿ではないと気付いたきっかけはなんでしょうか。

湯通堂氏:これも定量分析の話なのですが、以前某マッチングアプリを運営している方とお話する機会があり、ダイエットと恋愛マッチングは似ているという話をしました。

恋愛マッチングの場合、彼女を作るためにアプリを使って彼女ができなかったらアプリをやめます。でも、彼女ができても、それ以降はアプリを使う理由がないからやめる、いずれにしろユーザーが辞める仕組みなんです。

ダイエットも、ダイエットをしようと使ったけど痩せなかったから辞めます。しかし、痩せてもユーザーは辞めてしまう。「マッチングのジレンマ」を起こしてしまっているんですよね。マッチング率を上げる努力をしないといけないが、上げすぎると課金をやめてしまう。じゃあ(ダイエットしたくなったらまたアプリに)帰ってきてもらおうという発想になるんですけど、結婚を目的とした恋愛マッチングの場合はユーザーが帰ってきてくれないというジレンマもあります。

森下氏:マッチングアプリって「この彼氏彼女が出来ないギリギリのマッチング比率を保っていたらユーザーはやめない、仮にやめても別れたらアプリ戻ってきてくれる」っていう塩梅のバランス調整をし続けて、月額課金を最大限に引き伸ばす黄金比を見つけるというアプローチなのかなと思ってましたが違うんですね。

湯通堂氏:その方にも聞いたのですが、彼らは「マッチングしてアプリをやめられてもいい」と思ってます。自分たちのサービスはずっと使い続けるものじゃないと割り切って、全力でマッチングさせようという考え方。だから、1ヶ月経たずにマッチングしてアプリをやめても、それはそれでいいという方針なんだそうです。

それならFiNCも同じように、「できる限りダイエットできるように頑張ってもらって「ダイエットに成功したらやめてもらう」っていうスタンスなのか?」というと違うんです。

お金を払って短期集中でとりあえずダイエットができても、その後すぐにリバウンドをしてしまう。僕たちはずっと健康になれるような、人生に寄り添えるようなサービスにしたいと元々考えているので、無理なダイエットで痩せさせて、リバウンドしてを繰り返させるのは、やりたいことではないんです。

そう考えたときに「僕たちがポジショニングするとこどこだっけ?」と考えると、きちんと記録管理ができて、長く人生に寄り添ってくれて、その記録したことをちゃんと可視化してくれて、解決するためのソリューションをライフスタイルのタイミングによって提供してくれるサービスだよねってところで落ち着きました。

今後のFiNCは、課題解決をより細かく、より広く

湯通堂氏:今後のFiNCとしては、ターゲットを細分化したいと考えています。例えば薄毛に悩む人が、記録をしてポイントを貯めて育毛剤を買えるとか、二の腕のサイズを測る記録をして、溜まったポイントで二の腕のローラーを買えるとかですね。

FiNCはヘルスケアにおける課題や悩みに対して、それを解決するための「記録ログ」と「商品」を提供するというやり方を持っています。

今のメインユーザーである20代30代の人達が「どういう記録でどういう商品を提供したらもっと使ってくれるのか」を分析して、いまの機能で解決できる課題を解決していきたいと思っています。

マーケターが持つべき分析スキルと実務に求めるレベルとは

森下氏:ここまでサービスについて話してきたのですけど、マーケターに求められる分析のスキルについて話すとスキルとして2つあると思っていて、まずは「メタな分析」というか「染色体に刻むべき分析的思考」だと思います。分析と言われるといろんな方法があると思いがちなんですが「大きさを考える」「比較して考える」「時系列で考える」「わけて考える」の4パターンしかありません。

 

▲図:分析の基本的姿勢(『意思決定のための分析の技術』から引用 位置No. 192/3387)

森下氏:例えば、「大きさを考える」とは言い換えると「感度が最も高い変数はどこか?あてをつけること」とも言い換えられます。つまり、目的に対して最も感度が高い変数探しです。以下が著書「意思決定のための分析の技術」の例です。

 

▲図:分析の基本的姿勢(『意思決定のための分析の技術』から引用 位置No. 234/3387)

森下氏:上記は1994年の日本の右ハンドル車と左ハンドル車のシェアです。前提として、その当時米国メーカーは日本市場に左ハンドル車のみを投入しており、売上が伸びない理由が何なのか模索しておりました。しかし、上記のように日本の右ハンドル車と左ハンドル車の市場規模という「大きさに分けて」考えれば、たかが7.3万台市場が最大パイの市場のシェアを獲得することよりも、右ハンドル車市場350万台の新規シェアを獲るべきだと誰もがわかるわけです。これが「大きさで考える」の最たる例です。(以下、「比較して考える」「時系列で考える」「わけて考える」は割愛)

 

▲図:分析における意味合いの本質(『イシューからはじめよ』から引用 P165 図12) 

森下氏:でも、この4つの分析の話ってすごく重要で、特にマーケターになり始めの人たちはもうDNAというか染色体に刻み込んで欲しい話です。データ分析の業務をする時だけじゃなくて、日常生活で無意識に考えるまで染み込ませたいです。例えばコンビニの棚を見たときに「陳列にどういうパターンがあるのか・先週と変化があるのか・差があるのか」といったことを考えるのを癖にしてほしい。データ分析の時だけじゃなくて、常に考えることが重要です。

湯通堂氏:それは間違いないですね。それを突き詰めていくと、自分が担当しているプロダクトやサービスで形になるんですよね。

森下氏:それから、マーケターにもう1つ必要なのが勝利条件の設定とそれに紐づく課題の見極めです。例えば、月商3億円の売上があるソーシャルゲームがあるとします。これを①4億円にすることを勝利条件とする。②10億円にすることを勝利条件とする。この①と②では紐づく課題が全く異なります。①は現状の延長線上に改善点があるのに対して、②はおそらく現状の延長線上に改善点はありません。つまり、月商3億円→10億円にしたいなら、さっさとこのアプリ潰して10億円の売上上げるアプリの開発に時間使おうぜ。となるわけです。

ですので、まず勝利条件、すなわちどのような状態になったら我々(=とりまくステークホルダー全員)が幸せな状態なのかを設定するところからスタートします。設定基準はそれぞれですが、保守的でわかりやすい設定方法はとりまくステークホルダー全員の損益分岐点を超える売上って何円?というアプローチです。

湯通堂氏:FiNCを例にして言うなら、アプリの継続率を「記録」と「ポイント」という機能と関連付けて、その2つを勝利条件として見極めて戦略を立てたということですね。

森下氏:勝利条件を決めて、ゲームでもプロジェクト分解シートとクラスター分析のような診断ツールで、全体を俯瞰して考えられる人の方が課題を見極められる。そういう人の方が売上やプロダクトの数値を改善できるだろうと思います。

あとはゲームでいうなら、類似のゲームでSALESランキング上位勢はUIやUXが完璧なゲームなはずなんですよ。なぜならユーザー体験として心地よいとユーザーが感じるから課金しているためです。だから似ている人気のアプリを並べて「どこが欠けてるんだっけ?」と比べてみるとだいたい答えがわかるんですね。そういう分析的思考を通じて、勝利条件を達成する頭の使い方ができるかどうかは、マーケターとして重要だと思います。

働くうえで大切にしていること・行動指標

湯通堂氏:僕も昔は「売上を上げるためにプッシュ通知をいっぱい打つ」ということやっていたんですよ。でも、結果的にそれで何が起こるかというと、プッシュ通知を打った日だけ売上があがるんだけど、長い目で見るとどんどん売上が下がっていくんです。

森下氏:湯通堂さんにもそんなときがあったんですね。

湯通堂氏:これは課題を見極められてなかったのと、プロダクトや事業を俯瞰的に捉えられてなかったという2つの原因があって「どうしたらもっといい施策ができるだろう?」と考え始めたのがスタートです。これについては『イシューからはじめよ』という本と『システムシンキング』という2冊が僕の中でバイブルになっています。

湯通堂氏:やることリストを作って上から優先順位をつけて対応するよりも、根本にある課題やイシューを突き止めて対応する方が良いことが多いんです。『イシューからはじめよ』では本質的なイシューがわからずに行動し続けることを犬の道と表現しているのですが、意識しないとほとんどの人がなりがちなので、仕事を進める際は常に意識をしています。

また、イシューを突き止める際に重要なのがシステム思考で、外部環境も含めて何がどのように影響して今の状態になっているのか?を理解することが重要です。システム思考を理解するために、『システムシンキング』の本は非常に勉強になりました。それから、個人的な信念でいうならば「一緒に働いてる人が、自分が好きなことを120%やった状態で、全体の成果を上げる」というのが僕の行動指針です。自分のやりたくてやりたくてしょうがないことをやっていたら、人間は100倍も大きい成果を出せると信じてるので。そういうチームや組織を作りたいです。

森下氏:極めて性善説な思考ですね。

湯通堂氏:僕はマイクロマネジメントが苦手でして、誰もが自律的に動いている組織を目指しています。なので、個々人へのミッションと方向性だけ示したら、基本的には任せるというスタンスです。それを実現するためには、納得した上で自分の言葉で語れるようではないと自分の仕事とは言えないと僕は考えています。そのためにも、必要な情報は噛み砕いて相手が理解できるように伝えるということを意識しています。

 

ーーありがとうございました。

推薦図書

物事の相関関係や因果関係を正確に把握できる能力がデータ分析担当に求められます

『イシューからはじめよ』(Amazon
『実践システム・シンキング 論理思考を超える問題解決のスキル 』(Amazon
『意思決定のための「分析の技術」―最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法』(Amazon

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森下 明
株式会社ブシロード 広報宣伝部 副部長

デジタルマーケティング部門立ち上げのために2018年1月に株式会社ブシロード入社。新卒から一貫してデジタルマーケティング領域に従事しており、特にモバイルマーケティング領域に強みがございます。直近ではマーケティング戦略立案やWEBとマスを合算したトータル予算の最適化、各種データ分析手法を用いたアプリ内KPI改善などの業務がメーンになっております。スキルセットとしては、デジタルマーケティング、モバイルゲームプロデュース、データ分析が強み。 以下SNSで情報発信中ですので是非、フォローください。

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