不正被害から考える、マーケターに求められているものとは?[AppsFlyer × ブシロード対談]

不正被害から考える、マーケターに求められているものとは?[AppsFlyer × ブシロード対談]

昨年末よりスタートしたAppsFlyerさんを迎えてのAPP BRAINスペシャル企画。アプリマーケターが気になるトピックを中心に、さまざまなテーマでトークをお送りしています。今回はゲストに株式会社ブシロードの森下 明氏をお招きし、広告主の立場からマーケターの在り方、広告不正への取り組みや対策、組織作りなどについてお話を伺いました。

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(左から)AppsFlyer Japan 大坪直哉氏、株式会社ブシロード 森下明氏、ナイル株式会社 坂井直人

 

ナイル坂井:本日は森下さんに、広告主の立場からお話を伺っていきたいと思います。ブシロードにデジタルマーケティング組織を立ち上げる為に入社して、広告不正の対応に取り組まれていたお話を以前聞いたことがあったんですが、マーケターとしての考え方の中に気づきが多く、これはゲームに限らず沢山のマーケターに読んでもらいたいと思い、楽しみにしていました。

AppsFlyer大坪氏(以下、大坪氏):不正の鬼として取り組まれていた時期があったと思うんですが、最近はあまりそういう話をしていませんよね?

ブシロード森下氏(以下、森下氏):そうですね、2018年に入社して半年間は不正被害への対応・対策に注力し、その後はデジタルマーケティングの基本的な活動ができる組織作りと当社ならではのメディアミクス展開をより加速させる体制の構築等、幅広く取り組んできました。2020年はもっと違うことにも挑戦してマーケターとしてできる領域を広げていきたいと思っています。

今回は大坪さんからこのお話を頂き、広告主側の視点で僕がマーケターとして考えていることが、皆さんのお役に立てればとても嬉しいです。よろしくお願いします。

マーケターの知識・経験が「不正被害」から会社を守るきっかけに

大坪氏:まず、不正被害にあった経験のところから聞いていきましょう。

森下氏:代理店のレポートを見た瞬間、これは怪しいな・・・と思いました(笑)当時まだ日本では今ほど海外製の広告効果計測ツールが浸透していなかった為、自社で導入していた広告効果測定ツールにも、フラウドを除外できる機能がないという状況でした。ローデータを見てこれがフラウドであるかどうかを証明すること自体が大変だったのを覚えています。

自分で立てた仮説から、広告費の6割を占めていたノンインセンティブ系のCPI媒体への配信を全部止めてみたところ、オーガニックの獲得数が上がったんです。それも上がり方が異常値でノンインセンティブ系のCPI媒体を止めても、広告流入の獲得数とオーガニックの獲得数の合算獲得数はノンインセンティブ系のCPI媒体を配信していた前月と比較してさほど変わりませんでした。

この結果を受けて「ああやっぱりそうだったんだ」と確信しました。過去も含め被害状況が数字で見えてきたので、このタイミングで様々な精算や広告効果測定ツールも替えましょうと会社に提案しました。

大坪氏:トータルのインストール変わらず、non-organicが減ってもorganicがちゃんと獲れてるという。インストールハイジャックというフラウドですね、弊社のクライアントさんでも、同じような事例がありました。

 

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▲AppsFlyer Japanによる国内事例参考資料(2019)

AppsFlyerモバイル不正グローバル調査レポート [2019年上半期]によると、世界のモバイルメディア支出の約22.6%が不正業者に流れており、その不正の手口も日々進化している。国内でも月5,000万円以上の被害を受けていたケースもある。

 

大坪氏:出稿を止めてもトータルのインストールは変わりませんという話に、社内はどういう反応でしたか。今までの広告費はどうなっていたんだ!といった怒りや今後に向けたポジティブな反応はありませんでしたか?

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森下氏:ネガティブな反応に関して、この時点でありませんでした。恐らく、専門的な事象すぎて理解できる人がいなかったんだと思います。当時は不正な媒体への配信を止めるだけでなく、不正が起きやすい組織構造自体を変えなければと動き出したばかりで、ツールの入れ替えもそうですが、代理店マージンを開示させる(ネット金額を開示する)など、かなり広範囲にメスを入れていました。

代理店との手数料含めた契約に関しては当時の仕切りが悪かっただけの話なので、ここからフェアにしていきましょうとお話しました。ただし、不正による過剰請求の話はフェアかフェアじゃないか以前にだめでしょうと。代理店側からすれば成果なのかもしれませんが、広告主として認めるわけにはいきません。

ポジティブな要素としてあげるなら、「広告費の6割を占めていたノンインセンティブ系のCPI媒体への配信を全部止めてどのような結果になるか確かめる」という、ともするとインストール数が純減するようなやり方をチャレンジさせてくれたところでしょうか。

そうやってリスクとリターンを可視化した上で、合理的だと判断できることは実行させてもらえる社風に感謝しております。本来、AppsFlyerのような不正対策がちゃんとなされているツールであれば守ってくれるのですが、当時はそれでしか検証する方法がなかったので。

大坪氏:AppsFlyerでも、「ポストアトリビューション機能」で過去に遡ってフラウドを検出することが可能になったので、ツールもうまく使って欲しいですね。

森下氏:今はそうしたツールのお陰で、データをベースにきちんと判断ができるようになりましたよね。あの時AppsFlyer積んでたらどんなに楽だったか(笑)

「ポストアトリビューション機能」とは

リアルタイムの防御だけでは完全には防ぎきれない、 インストールハイジャックやボットといった多様化する不正業者の攻撃を事後的に封じることを世界で初めて可能にしたAppsFlyerが提供するProtect360に搭載された画期的な新テクノロジー(2019年12月)

世界初・過去に遡った不正アプリインストールの検出・除去する新機能「ポストアトリビューションテクノロジー」をリリース

 

大坪氏:前担当者は気がつかず、森下さんがフラウドに気がついたのはどうしてでしょうか?

森下氏:前職の広告主での経験や代理店時代にキャッチアップした知識で直感的に感じ取れました。気がつけるかどうかというのは、マーケターのツールや媒体に対する知識の差ではないかと思います。

各媒体でのCTRやCVR、CPCの相場はこの程度であるとか、変動しても変動幅はこの程度に収まるとか。その範囲を大幅に超えている場合は何が起きているか突き止めにいきます。

大坪氏:森下さんは代理店時代どのようなことをやっていたんですか?

森下氏:名が通っている大手代理店ではなかったので、相手のビジネスを徹底的に分析することを繰り返していました。クライアント以上にクライアントのビジネスを理解している状態で提案しないと大手代理店と戦えなかったので、マーケターとしてすごく鍛えられたと思います。

いま代理店さんの話を聞く立場になってからは、「我々のビジネスを理解していないなあ・・・」と感じることも時折あります。IPビジネスの複雑さやメディアミクス展開など不慣れな部分があると思うので、それはそれで仕方ないとは思いますが、媒体の機械学習が進む中で代理店が出せるバリューは限定的になると思います。

どこで差別化するかといえば、クライアントのビジネスを理解しているかどうかなのではないでしょうか。そこで差別化しないとそれ以外の変数はコモディティなので不毛なマージンの下げ合いが起こる。結果として代理店もクライアントもハッピーになれないと考えております。

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営業利益を意識させる、ブシロードが実践するマーケターの評価制度

大坪氏:当時は森下さんが自分で不正を見つけて会社に交渉するっていう戦いだったと思うんですが、マネージャーとしてメンバーをどう育成していこうと考えていますか?

森下氏:そうですね、会社の評価制度には明確には入っておりませんが、自分のチームメンバーには「自分のやったマーケティング活動を通じて、営業利益に何円貢献したの?」と常に聞くようにしてます。

売上をあげるのに比べ、営業利益をあげるのってすごく難しいと思うんです。会計上の人月を考えると1人あたり何円で、じゃあ自分はいくら営業利益を出せているのかというのを意識させています。

大坪氏:さきほど不正の話でも、不正そのものだけでなく不正が起きやすい構造として代理店とのビジネスモデルの違いを挙げてましたよね?森下さんは全て数字に置き換えて考えているなと感じます。

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森下氏:私が統括するデジタルマーケティングのチームは単なるプロモーションだけでなく、マーケティングを行うチームなのでアライアンスや時にはアプリ内のデータを分析してUIUXの改善依頼も行います。

ですので利益の上げ方にはいろいろな方法が考えられます。それを実践するためにも、自分のチームメンバーには最低限の会計知識は持って欲しいというのは思っています。

PLだけは最低でも読める、これは基本にしたいです。でないと事業計画が描けない。事業計画が描けないと儲かるかどうかわからない。儲かるかどうかわからないことにマーケターがプロモーション費を投下することはありえない。それこそマーケ部署はコストセンターだと言われても仕方がない。それくらい儲かるか儲からないかのルールである会計を理解することは尊いことだと思います。

これが理解できると、自分が実施しようとしていることは営業利益にどれくらい貢献するのか?さらに、今は会社のフェーズとして成長率や売上のトップラインを求められる時期だから様々な戦略オプションの中から私はこういう選択をしたというように自分のアクションに理由付けができるようになるはずです。

そうやって、営業利益を作るにはどうすべきか?ということを頭で考えて実行できる組織にすることを意識しています。そうすれば、我々の部署が存在する理由を金額価値で証明できますし。

大坪氏:会社の方針を正しく理解して動ける素養、知識として必要なものだと。

森下氏:もっと広くいうとメタ認知スキルだと思うんです。自分がこの会社、組織で何を求められているのか、それを今の自分の2レイヤーくらい上の立場に幽体離脱して考えて動けるようになるとすごく良いと思います。

私の2レイヤー上というと役職で言えば取締役や執行役員にあたるのですが、上司は1つ上の役職の上司もその先の役職の上司も同じ人間で、創業者であり多くの意思決定を下す木谷なんです。レポートラインが木谷だったことも影響しているのかもしれません。

大坪氏:AppsFlyerでも、“Think Like a CEO ”(「自分がCEOになったつもりで考えよ」)とよく言っています。森下さんのいうお話に近いイメージです。

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大坪氏:不正も、「組織の評価制度」にルーツがあるというお話でしたよね?

森下氏:はい、組織の評価制度を変えるってとても大変だと思うのですが、それは当社も然りです。ですので、まずは自分のマーケティング組織から従来の制度にプラスアルファで営業利益という軸を組み込みました。

大坪氏:森下さんのように評価制度まで改革していけるほど自由度の高い環境で働いてる人だけではないと思うので、まずこういうところから始めてみたら良いと思うアドバイスをもらえますか?

森下氏:そうですね、それでいうと自分が当時言われて印象に残っている言葉があって、「もし、自分が社長だったら、本当にそのお金の使い方をするか」という言葉です。自分が社長だったらこれでいいのか?と考えてみる。つまり、そのお金の使い方に身銭きれるのか?ということです。

大坪氏:営業利益ベースで考えるというところにさきほどの話にも繋がりますね。いま、日本はビジネス全体が停滞しているような雰囲気ですが、マーケターが変わってくれば日本自体も変わってくると思いますか?

森下氏:変わってくると思います。ただ、日本には現状そうしたい(変えていきたい)と思うインセンティブが与えられていないと思うんです。話が戻ってしまいますが、マーケターを評価する体制がまだできていないように感じています。

大坪氏:変化を望んでいるマーケターの皆さんへ森下さんからアドバイスするとすれば、どういったことがあるのか聞いてみたいです。会計知識以外に例えばコミュニケーションの中で実践できることとか、森下さんならどういうアプローチで「正しさ」を理解しあえる仲間を増やしていくのかなど。

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森下氏:ミュニケーションという点でいくと、開発側とマーケ側とで助け合える関係性を築くことが大事だと思います。売上の立つプロダクトを作ってきた開発を尊重しつつ、マーケター自身もプロダクトの中身を理解することで信頼を得ていく。

例えば、開発側がリリース後クリティカルなバグを改修している間に、中長期的な改修プランをマーケターが先回りして考えて提案してみるとか。実際に開発とマーケが縦割りになってて実行プランが独立して走ってしまうケースは多いので、そこで連携したプロモーションを打てるような体制をマーケターが作れると、よりゲームビジネスが加速させられると考えています。

また、大前提の話ですがマーケターという言葉の再定義が必要だと認識しています。アプリマーケティングにおいてマーケティング≒プロモーションみたいな使われ方をしている印象です。ですので、マーケター=プロモーションだけみる担当で、開発は無関係みたいな暗黙の前提があるなぁと思います。

その前提ですと、マーケターって広告経由のCPIやROASの最適化に固執し始めるんです。だから、不正が起きるんです。無理やりCPI下げに行こうとか無理やりROAS上げに行こうとかする。さらに先程申し上げた通り、開発とマーケが別行動するってデメリットしかないんです。たとえ組織図で開発とマーケが分かれていたとしても、マーケターから開発に歩み寄りやれることを見つけ、貢献し、信頼してもらう。そんなコミュニケーションスキルがマーケターには必要だと思います。

マーケターとは事業の売上に責任を持つ立場であるべきですが、なかなか日本企業でそこまでの責任と権限を持ってるマーケターは存在しない。しかし、マーケターとは事業の売上に責任を持つ立場であるべきだと意識しながら、事業にコミットすることは誰でもできる。視座だけは変えられる。要は仕事に対するスタンスの違いであって、事業の売上に責任を持つ立場だったらプロダクトのことに口出しするはずです。プロダクトのKPIとマーケティングのKPIを共に向上させることでしか売上や利益は向上し得ないからです。

本気で勝ちたいディベロッパーは“企業”でなく“人”でパートナーを選ぶ潮流

大坪氏:今回の森下さんのお話は、フレームワークを教えてくれた気がしますね。マーケターの人達の間で「マーケターとして必要なものや何を学ぶべきなのかが分からない人」って結構多いと思うんです。

森下氏:海外には本当に凄いマーケターが沢山いますけど、今の日本は自分の見せ方を変えることで、成長できる機会が沢山あると思います。

大坪氏:日本を俯瞰してみた際に、海外に比べて不正への取り組みがまだまだ弱いというお話をしてましたよね。

森下氏:しましたね、大坪さんと。日本のマーケターは代理店文化が根強いのに対し、海外の場合は大きなメディアに関しては直接インハウスでやる機会の方が多く責任も重たいですし、その分マーケターの地位も高いので与えられるインセンティブも高いなと感じています。

大坪氏:そこに気がついたのは自社のゲームを売っていく過程でですか?

森下氏:りから聞く二次情報もありますし、昨年のサンフランシスコで行われたGDC(ゲームデベロッパーカンファレンス)へ行った際に現地のゲーム会社を訪問した際に得た一次情報でも感じました。マーケターがインハウスで体制整えてゴリゴリ運用している状況を見た時に日本とは全然違うなと気がついたんです。

最近だと日本でも、本気で勝ちたいと思うデベロッパーはみんな「代理店がどこ」ではなく本質的に自分達のビジネスにコミットできる「人」を選んで発注しているように思います。自分も同じ考え方を持っていて、広告主の立場として一緒に仕事をするパートナーには、コミュニケーションコストの掛からない=自分達のビジネスを理解してくれていて尚且デジタルプロモーションの実務リテラシーが高いことを望んでいます。

坂井:森下さんのお話を聞いて、マーケターが視座を広げてアクションを起こすために必要な知識・能力をつけるという部分がすごくクリアになりましたね。マーケターだけに限らず、一人一人が経営者の視点で自分の仕事がどれだけ会社に利益貢献できるかを考えて動くってとても大切だと思うので。

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ー本日はありがとうございました

 

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